「家出を希望する少年少女を巧みにSNS上で誘い出し、およそ2カ月にわたって自らが所有する借家に住まわせていたとして、県警は30代の男を未成年者誘拐の容疑で逮捕しました。同容疑者は『宅建の勉強するなら養ってあげるよ』と県外に住む中学2年生の少女を誘い出し、4月の上旬から5月下旬まで、自身が所有する借家に住まわせた疑いがもたれています」

 仕事から部屋に戻り、とりあえずスイッチを入れたテレビで女性のアナウンサーが神妙な顔をして原稿を読んでいた。僕はネクタイを緩める手を止め、ニュースの続きを聞いた。

 「女子中学生は個室を与えられ、携帯電話の使用や外出は制限されておらず、食事は3食与えられていたということです。女子中学生は学校の勉強のほか、時間を決めて宅建のテキストを勉強していたと話しており、容疑者は『将来的に自身が経営する会社の社員になってもらいたかった』と話しています」

 僕はもう少し詳しい内容が知りたくなり、PCの検索窓に「中学生 誘拐 宅建」と打ち込んでみた。すぐにいくつかの記事がヒットしたのでひととおり目を通したけれど、さっき見たテレビのニュース以上のことはほとんど書かれていなかった。

 性的な目的の犯行というわけではないためか、容疑者を擁護するような雰囲気のコメントも多く見られ、中には「お前ら、父親の気持ちにもなってみろよ。いなくなった娘が宅建士になって戻ってきたらお前らどう思う?」「育成大成功やろ!」といったふざけたやりとりもあった。

 僕はそこまで読むとPCの電源を落としてスーツを脱ぎ、すっかり色が落ちてしまい、ところどころ生地も薄くなりかけているスウェットに着替えた。