私がカフェで争いに巻き込みかけた頃のタクは、会社や取引先などの人間関係もあって、あまり毒を吐くことができずにかなりストレスを溜め込んでいたようだけれど、小説がそういうストレスの発散の場になっているようだった。

 2作目の中にこんなエピソードがあった。暑い日が続いている夏の日のある日、テレビの街頭インタビューで、高齢者夫婦がこんなコメントをしていた。

 「最近の子供たちは弱くなった。私らが子供の頃は、クーラーなんかなかったし、みんなカンカン照りの中、外で走り回ってたもんですよ」

 この発言を受け、隣にいた若者が「お二人は今、どれくらいクーラーをお使いになっていますか?」と尋ねた。

 「家にいるときはほぼつけっぱなしですね」と答えた老婦人に対し、その若者は「じゃあ、最近の高齢者は昔に比べて弱くなったんですね。お二人が炎天下で走り回っていた頃の高齢者の方々はクーラーなどなかったんでしょうから」と言った。

 むっとした様子の夫婦に「お二人が子供だった頃の子供たちと今の子供たちを比べるのであれば、お二人が子供だった頃の高齢者とお二人を比べないとフェアではないでしょう」と付け加え、若者は去っていった。

 私はこういった場面が描かれていると、タクが悪戯っぽい表情を浮かべて、すぐそこに立っているような気がした。

 

「ロースクールに行くなんて穀潰しの際たるものだよ」私の周りで自嘲気味にそんな風に話す人もいた。大学や高校の同級生たちが就職して社会に出ている一方、自分たちが学生でい続けていることに対する自虐的なコメントだったが、そうことを言う人たちに限って、本当は誰よりも強いプライドを持っていた。

あの頃の私は、あのカフェでタクにした約束を守れていたのだろうかとふと思った。