タクは少し悲しい顔つきになった私を見て、明るい話題に戻した。

 「長篠の合戦ってどんな風に習った?」

 「どんな風って、、、織田信長が鉄砲隊で武田勝頼を破ったって習ったけど」

 「そうだよね。当時の火縄銃だと撃ってから弾を込めたりする作業に時間がかかるから、信長が鉄砲隊を何列かに並ばせて、次々に銃を撃てるようにしたって習わなかった?」

 「そうだったと思う」

 タクによれば、小学校の社会の授業でこの長篠の合戦の説明が先生からあった後、地域で嫌われているおばさんにみんなで悪戯をしかけたらしい。クラスの男子6人がロケット花火を買い、方向を定めるために台所で使うラップの芯を持参して、そのおばさんの暮らす家が見える丘に集合した。タクたちは2人が3列になり、順番にロケット花火をそのおばさんの家に向かって次々に発射したのだそうだ。

 「狙いを定めるためにラップの芯を持ってくるなんて小学生にしては頭いいね」と私が感心して言うと、「残念ながら風向きを計算するというところまで頭が回らなかったけれどね」とタクは笑いながら答えた。

 タクたちがおばさんの家に向かって発射したロケット花火は風に流され、隣の家の犬小屋付近に次々に着弾した。「その家の犬は鎖につながれてたから逃げ場がなくて、キャインキャイン吠えながらぐるぐる走って気絶しちゃったんだ。ほんとに可哀そうなことをしたな」とタクは言った。

 「ロケット花火は何本あったの?」

 「確か一袋に3本入ってたのを一人あたり3袋買ったから、54本かな」

 「次の日学校で怒られたでしょ?」と私が言うと、タクは首を振った。「みんなですぐにその家に行って、花火の残骸を回収したから」

 「犬の飼い主にはバレなかったの?」

 「たぶんね。おばさんからも俺たちは目をつけられてたから、誰か小学生がイタズラしたのではないかって疑いがかけられたのだけれど、鉄の結束で秘密を守り通したよ」とタクは懐かしそうな顔をして笑った。

「その後、授業が江戸時代に入って、徳川綱吉の生類憐みの令を習ったときは、嫌な気持ちになったなあ。みんなで俺たち打ち首だなって話した」

 「確かに。でもそもそもなんでタクたちはそのおばさんに目をつけられてたの?」

 「そのおばさんの家はうちのあたりみたいな田舎には似つかわしくない洋館だったんだ。西洋風の建物ってことね。結構古びてたせいもあって、勝手にみんなでお化け屋敷って呼んでたんだ」

 「なるほど」

 「4年生のときだったと思うけれど、そこにみんなで探検に行こうって話がまとまってね、おもちゃの鉄砲をもって探検に行った」

 「人が普通に住んでいる家に?」

 「そう。みんなで塀をよじ登って裏庭に入ったら、裏口の横に地下に入っていくような階段があったんだ。地下室なんて日本では珍しいじゃない?だからみんな余計興奮して、そこを降りていったら、地下室に入るドアがあった」

 「そこから入ったの?」

 「いや、鍵がかかってて入れなかったから、みんなでその扉をドンドン叩いてたのね。そしたら中から『コラッ』って大きな声がしたからみんなで急いで逃げてきた」

 「ごく当たり前の反応よね」と私が言うとタクは笑いながら頷いた。

 「次の日、緊急の朝礼が学校で開かれて、みんなの前でめちゃくちゃ怒られた」

 「その時は鉄の結束はまだなかったの?」

 「4年生の男子全員8人全員で行ってたから、犯人は火を見るよりも明らかで、残念ながらそのときは鉄の結束は発揮しようがなかった」