三度笠 | ケニーのがらくた箱

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ヤー!
シンガーソングライティングトランスレーター / キイチエモンズのギタリストであるオバタケンのブログ!


畳ばりの広い部屋。


男4人で、それぞれのラジコンを持ち寄って遊んでいた。

4人のうちのひとり、Fは大学で知り合った友人である。


皆、ラジコンを走らせるのではなく、
あぁでもないこうでもない
と、いじくって遊んでいた。



すこし離れたところに、
すごく大きなラジコンがあることに気づいた。


人が乗れそうなくらい、巨大なものだった。

20年ほど前のモデルのメタリックゴールドのスポーツカー。


みんな、

「なんぶんのいちスケール?」

「もしかしてエンジンRC?」

と興味津々だ。



僕が運転席のドアをあけて乗り込もうとしたが、
さすがにラジコンなので、
中にはそんなスペースはなく、諦めた。


すると、Fが

「乗りたいんやったら俺のんあるで!」

と僕に言った。




そこには、1/1スケールの、4トントラックのラジコンがあった。

いつか憧れていた、タミヤのベンツのトラックのラジコンだ。


いつの間にか、
次第に、畳の部屋は交差点の角の駐車場になっていた。


さっそく、ドアを開けて運転席に乗り込んでみるが、
天井がやたらと低く、運転などできるものではなさそうだった。



―僕にはそのとき、ふと、
このラジコンの部品が僕の家にあったらどうなるだろう
という考えが浮かんでいた―




トラックを降りると、
Fとあとの二人が、トラックの荷台から荷物を降ろしていた。


と、すぐにFは

「あっちで荷物おろさなあかんから、行ってくるわ!」

と言って、トラックに乗り込み、発車した。

あの狭い運転席もどうやらもう慣れっこらしい。




僕は横断歩道を渡った。

とめてあった誰かの自転車のサドルに、三度笠がかかっていた。


《こんなん普段着で使う人、今どきおるんやろか…?》


信号待ちのトラックのラジコンと、サドルにかかった三度笠。

僕は写真を撮った。




Fは僕に気づいていなかった。

信号は青になり、彼の乗ったラジコンは勢いよく走り出し、左折した。

実車さながらのエンジン音をたてて。