◆ 発達心理学からの考え方 | ゲームデザインエクセレント

◆ 発達心理学からの考え方

 ホイジンガやカイヨワの立ち位置には、遊びという概念を人類史の中にどう位置づけていくかという視点があるようです。しかし私たちには大きすぎますね。さしあたり、個人史の中で考えてみましょう。
  まずいえるのは、カイヨワ流の4分類は、ある程度成長してから出ないと当てはまらないということ。子供の頃にはそういった諸要素は渾然一体になっていて、「この欲求に対してこれ」というようにすっきりとは分けられません。そもそも、話のスタート地点にあった「『遊び』vs『仕事』」という二項対立が、意味をなしません。カイヨワも戦前に高等教育を受けた人なので、人間を論じるにあたって「文明国の成人男子」だけを前提視してしまう近代西洋思想の悪癖から、無縁ではいられなかったのかもしれません。
  では、個人史的にさかのぼってみると、どんなことが言えるでしょうか。自分自身の記憶は誰にとっても幼児までですが、観察による推測が許されるのなら、もっと先まで進めます。そして、赤ちゃんもまた遊んでいるのだということに気づくでしょう。赤ちゃんの行動は、かなり"むだなこと"に費やされています。例えば何かがあれば触ってみて、掴んでからなめたりしゃぶったりします。実はこれは、得られる身体感覚において気持ちのいいものと不快なものとを判別し前者を蓄積していくというフィードバックループを形成しているわけで、むだに見えてそうではありません。結果だけを捉えれば「学習」ですが、その過程はまさに遊びといっていいものです。
  「なぜ遊ぶのか」という理由は、この場合は明確ですね。赤ちゃんである以上、身体感覚的な快感以外にありません。
  以後、成長につれて、できることも幅広くなってきます。ボール状のものならいじったり投げたりしますし、棒っきれは振り回したりしてみたくなります。しかし、そうした身体感覚的な楽しみだけでは、長くは続きません。ボールや棒にしても、それを本来の形で使った遊びを求めるようになるでしょう。幼児期の後半になると野球ごっこになり、小学校入学ぐらいでは野球っぽい遊びになり、やがてちゃんとした野球へと進んでいく訳です。

 スイスの児童心理学者ジャン・ピアジェは、発達段階説というものを唱えました。子供の遊びに注目した上で、発達過程と結びつけて4段階に分けたのです。


●感覚的遊び 

感覚器官や運動能力と密着した遊び
赤ちゃんの発達の初期段階から登場する。


●機能的遊び 

おもちゃを使った遊び。
与えられたおもちゃの使い方を理解するところから始まる。


●象徴的遊び 

ごっこ遊びなど、何かを真似したり、
あるいは何かを別のものに見立てたりする遊び。


●社会的遊び

関係性や役割など、人間社会を反映した遊び。
ごっこ遊びが発展すればこれになるし、特に友だちとの遊びの中で出現する。



例えば赤ちゃんが積み木を投げたりしゃぶったりするのが感覚的遊びの段階です。やがて成長すると、同じ積み木でも、積みあげたり組み合わせたりといった積み木本来の使い方をするようになります。これが機能的遊びの段階です。さらに成長すると、象徴的遊びの段階に入ります。家なり城なりを組み上げ、人形を配置したりもするのです。そして、それら人形に、王様や兵士といったキャラクター性を与えるようになるのが、社会的遊びの段階です。
  なお、この考えは、「次の段階が、前の段階にとって変わる」といっているわけではありません。3歳ぐらいになれば、社会的遊びの段階に到達しますが、だからといって、象徴的遊びをしなくなってしまうというわけではないのです。