◆物語作法の誤解
そうした本ですが、多くの場合「物語はトップダウンで書く」が前提になっているように見えます。つまり、次のような段取りが想定されているように読み取れると言うことです。
1.日頃から、書きたいと思っている分野を用意しておく
2.そこから「これを書く」という題材を、作品規模とあわせて決める
3.両条件をふまえて、作品の核になるテーマを抽出する
4.テーマを実体化するためのコンセプトを選び出す
5.作品世界を構成する諸要素を設定する
6.キャラクター(主人公や敵も含め)を設定する
7.「起承転結」とか「序破急」とかいった構成を決め、細分化する
8.特に中心となる事件と、そこにいたるまでの伏線を決める
9.それぞれのパートの中身を作っていく
ただ、こんな決めつけがなされると、一言言いたくなりますね。アイデアのとき(第3章)と同じく、こう問いかけたいのです......「あんた、ほんとにそんな順番で作品作ってるのか?」
物語作法がこのようにまとめられているのは、実際のところ、本というメディアの制約でしょう。
実際の物語作成は、もっともやもやしたものです。あらゆる場面で行きつ戻りつを繰り返しながら進めていく、泥臭いプロセスです。ただ、本というのは、もやもやをもやもやのまま書くことはできません。解りやすく明確な言葉を選んでいく必要があり、そこで、著者自身が実際に行っているプロセスとは別に、説明用に一本筋の通った記述をしていくことになるのです。
というわけで、よどみない流れとして描かれているのは、単にそう記述してあるというだけのこと。それを「著者がそのように主張している」としたのでは、読み間違いです。
ただ、そんな誤読が発生する理由は、作者が想定する読者像とのずれにあります。
こうした本は、読者が多少の創作体験を持っていることを想定して作られます*2。現実との差分は、読者自身が自分の創作経験に基づいて補えばいいという前提で書かれているのです。想定されている水準は本によってまちまちですが、「入門」と銘打っているのなら、"ノートに書き殴って友人間に回覧"程度でも十分でしょう。
逆に言えば、その程度の経験すらない人では、誤読の可能性も断然高くなってしまいます。そういう人は、読む前に書くべきなのです。