◆ ゲームストーリーの登場 | ゲームデザインエクセレント

◆ ゲームストーリーの登場

 こんにち、ほとんどのゲームには何かしかのストーリー要素が付いています。これは、一応、コンピュータ化される前のゲームセンターから始まっていると言えるでしょう。
  若い人には意外かも知れませんが、ゲームセンターという場所は、コンピュータの登場以前から存在しています。「エレメカ」と呼ばれる電気仕掛けの遊戯台<*1>が、いろいろな遊びを提供していたのです。それらは、遊び自体は単純ですが、例えば、射撃やレースなど、多くの場合何かを"なぞらえる"という形で成り立っていました。そして、このなぞらえ自体がストーリー要素と言えなくはないものでした。
  ただ、実際のところ、この段階ではまだ言い切ることは、無理があります。何かがモチーフになっていても、基本的に"見立てていた"だけだからです。やがて コンピュータゲームが登場し、順次置き換わっていったのですが、ゲーム性は多分にエレメカ的でした。『スペースインベーダー』(78年)の登場は、ゲーム産業としては一大転機です。しかし、作品の視点からでは、それほどのものではありません。宇宙戦争をモチーフにしたといっても、あくまでも記号的に扱っているだけ。侵略について、何らかの物語が与えられていたわけでもないのです。

 このような状況が変わったのは、ブームもひとしきり落ち着いた80年頃です。単なる見立てやなぞらえではなく、明確なストーリーを与えられたゲームが、続々と登場してきたからです。
  例えば『ドンキーコング』(81年)。ゲームそのものは、障害物を避けたり壊したりしながら前進していくシンプルなものでしたが、
   「巨大な類人猿が、女性をさらって建設中のビルに逃走した。
    主人公はそれを追いかけ、妨害を避けながら、女性の解放をめざす

  というストーリーが用意されていました。また各キャラクターにも「マリオ」「レディ」など、固有名詞が与えられてもいました。
  『パックマン』(80年)はもっと記号的なゲームでしたが、四体の敵がキャラクターとして設定されていた点は、マリオを凌ぎます。それぞれ名前が付けられ、性格付けも施された上でアルゴリズムに反映されていたからです。
  シューティングゲームも、同様です。例えば『ゼビウス』(83年)には、とてもこの場では引用しきれないような壮大なバックストーリーが用意されていましたし、同じナムコの『ボスコニアン』(81年)では、当代きってのSFイラストレーターの手による壮大なポスターが制作されていました。つまり、プレイヤーが闘う世界に関する物語が用意され、登場する敵や背景のデザインなども、その世界観に基づいてまとめられていたのです。多少の音楽(ジングルといったほうが言い程度の短いものですが)も付くようになり、映像作品的な外観を獲得していきました。