◆使いこなしのシナリオ | ゲームデザインエクセレント

◆使いこなしのシナリオ

 「ユーザーインターフェイスのデザイン」というテーマは、道具レベルと装置レベルとでは、かなり違う様相を呈してきます。個々の画面やコントロールのデザインであれば、道具レベルの問題で済むでしょう。しかし、ソフトそのものは、装置として捉えなければならない複雑さを持つ場合が大半です。
  ちゃんと使うためには、ユーザーは手順を踏んで使い方を理解していかなければなりません。この手順は、作り手によって、ソフトウェアの操作体系の中に組み込まれるものですが、どのように組み込むかによって、そのソフトの使い勝手は全く変わってしまいます。逆に言えば、いいソフトを作るためには、いい手順を組み込まなければならないということです。
  これについて私は近年「ソフトウェア・シナリオ」というものを考えています。
  これはユーザーに対するシナリオです。まずそのソフトを使うユーザーを考え、その人が実際にたどるであろう道筋を想定します。そして、それにふさわしい形で各要素を配置していくのです。ユーザーは、ソフトを使いながら成長し、最終的に「使いこなしている人」になるわけですが、そこにいたる道筋をユーザー任せにするのではなく、ユーザーがたどるべきシナリオとしてきちんと想定した上で、デザインの中に組み込んでいくということです。


 そもそも"使われる物"のデザインには、具体的ユーザー像を想定することが、本来不可欠です。しかし、ソフトウェアではあまり重視されていませんでした。......彼/彼女は、まず最初にマニュアルを読む。そして、全ての機能とコマンドを十分に理解したうえで、ソフトを使いはじめる。「そのソフトを使って何をするのか、何ができるのか」といった問題は、導入を決めた時点で明確であり、それまで別の方法や他のソフトを使って進めていた仕事は、ただちに新ソフト上に移行され、投じた資金(=ソフトの値段)にふさわしい見返り(=能率向上)を、手にし始めることができる......と、こんなきわめて観念的なユーザー層が想定されていたのです。
  現実にはどうでしょうか。マニュアルを全く無視するような人は少ないのですが、多くは熟読する前にまずソフトを起動してみるでしょう。そして、過去の経験を元に、あれこれいじってみるはずです。高機能なソフトでも、そのソフトの全てを最初から使おうとはせず、まず使える機能を理解して、限定的な形で自分の仕事に適用していくでしょう。また、「そのソフトを使って何をするのか、何ができるのか」への見通しも、多くの場合明確なものではありません。映像編集ソフトを買う場合、「子供の運動会ムービーをデスクトップで編集したい」といった意味での"使用目的"は持っています、具体的にそれがどういうソフトウェア操作を意味するのかまで理解しているとは限りません。そういうことは、あれこれやりながら理解していく......これこそが、ユーザーの実像でしょう。
  これは「ソフトを使いながら成長していく」ユーザー像と言えます。


 ゲームの場合、アクションなど反射神経で楽しむものは、ある意味単純明快です。しかし、シミュレーションのように主に大脳で楽しむものでは、かなり複雑な操作を必要とする場合がありますし、その複雑さ自体が楽しみの素という場合もあります。
  ただ、より多くの人に本気でプレイして貰うためには、初心者をどうやって上級者に育て上げていくのかを考えなければなりません。それには、ただ丁寧なマニュアルをつけておけばいいなどということはなく、ソフトウェアそのものをシナリオを意識して作っていくべきなのです。