◆ デザイン対象としてのUI | ゲームデザインエクセレント

◆ デザイン対象としてのUI

 実際のゲームを念頭に置くと、ユーザーインターフェイスのデザインは、非常に広範囲な作業となります。
  これは、起動してから実際に遊び始めるまでのプロセスを考えれば、解るでしょう。起動画面があり、キャラメイクなど初期の設定を行って、いよいよゲームに。そしてゲーム中も、戦闘画面やステータス画面など、さまざまな画面モードを切り替えながら進めていくことになります。ユーザーインターフェイスのデザインには、こういう画面の遷移やコマンドの階層といったグローバルな構造も含まれますし、個々の画面構成要素の形状やふるまいなども当然対象になります。極端な話、アイコンやコントロールのデザイン・アニメーションまで含まれてくるのです。そして、何を見せ何を隠すかも判断しなければなりません。
  冒頭短文の引用元である『クロフォードのインタラクティブデザイン論』は、ソフトウェア一般を対象にユーザーインターフェイスのデザインを説いた本ですが、決してノウハウ集の類ではありません。1テーマだけの本とは思えない高い密度で、非常に深く書かれています。理解の前提になる知識も、文系理系を問わない広範な分野に属するものです。


 デザイナーにとって大事なのは、「テンプレートに押し込めない」ということです。ソフトウェアのふるまいやユーザーに求めるアクションについて、「この分野ではこうすることになっているから」で決めてしまうのではなく、しっかりした根拠を持つと言うことなのです。このあたり、前回指摘した"様式"問題と共通します。そちらでは「面白いかどうか」がキーワードでしたが、こちらでは「使いやすいか」(使うにあたって適切か)が求められると言えるでしょう。
  もちろん、見た目の美しさも、使いやすさの一部ですし、ときには引き替えにすることもあるかもしれません。ただ、そのような検討なしで行った制作は、例えどんなに美しかったとしても、デザインとは言えません。


 多彩で多様なテーマですが、一つ注目ポイントを挙げれば、「"使われる物"であることへの十分な配慮」です。
  そもそも、ソフトウェアは『装置』です。「文書を作る」「データを処理する」といった目的を達成するために使うものです。この本質は、ゲームの場合も違いはありません。プレイヤーが遊ぶための装置なのです。
  さて、"使われる物"には、重要な条件があります。使いやすいものでなければならないということです。
  そして使い方を示唆する形状をしている必要があります。例えばノブが付いているドアを開けるとき、引き戸のようにスライドさせようとする人はいません。ノブをどちらかに回した上で、押すか引くかをやってみるでしょう。ドアノブというデバイスが、その使い方を示唆しているのです。今日のユーザーインターフェイスにおいてメタファー(比喩)が多用されているのは、ここから来ています。画面上にボタンの絵が描かれていれば、押す(クリックする)ものであることが一目でわかりますね。
  そしてもう一つ言えるのは、「何をすれば何がおきるか」の予測が付くということ。ある処理を理解したら、その類推で、他の処理も理解できるというようなものです。
  ただ、「道具」といわずして「装置」という点に、問題の一端が伺えますね。かなづちやノコギリも何らかの目的を達成するためにありますが、これは装置ではなく道具です。手にとれば、ある程度使い方も解るでしょうし、使っている人が近くにいれば、見よう見まねでやってみることができます。ところがソフトウェアは道具ではなく装置で、見ているだけでは使えるようになりません。