◆ その他のアナログゲームから | ゲームデザインエクセレント

◆ その他のアナログゲームから

 他、コンピュータ化による恩恵をそうした方向で使ったゲームの典型例として、RPGが挙げられます。
  現在、RPGといえばコンピュータゲームとしてのRPGです。『ドラクエ』や『ファイナルファンタジー』のようなタイトルが典型とされ、そのせいで一般には「剣や魔法を使える主人公が魔王を倒す、ストーリーのあるゲーム」といった理解でとらえられています。
  しかし本来のRPGは、ゲームマスターを中心に人間どうしで対話しながら進めていくテーブルゲームでした。マスターは、二人称の物語をプレイヤーたちに提示します。そしてプレイヤーたちは、戦士や魔法使いなど、何らかの役割を演じて、その物語=ゲームに参加します。ちなみに「ロールプレイング」という言葉自体が、「役割を演じる」という意味を持っています。
  本来のゲームマスターは、単なる語り手ではなく、ゲームプレイの全てを仕切る支配人です。用意したシナリオに基づいてゲームを進め、キャラクターの能力、武器や持ち物、そして遭遇したモンスターとの戦いなど、パラメータを元に判定を行っていきます。ただ、手計算でメモしながら進めていく都合上、あまり複雑なことはできません。ゲームシステム自体、割り切った設計とならざるを得ませんでした。
  コンピュータゲームとしてのRPGは、このテーブルトークをソフトウェアにするという取り組みの結果、産まれたものです。個人でも保有できるプログラム可能なパソコンの登場によって、それが現実化したのです。もちろん、コンピュータは人間のゲームマスターほどの対話能力はありません。貧弱な表現力しか持たず、想定外の事態に対応することもできません。ただ、その一方で、メモリーの許す限りの記憶能力や、複雑な計算でも瞬時にやってのける演算能力など、人間には苦手な能力も持ち合わせています。これらの特徴を反映した結果、元のテーブルトークとはずいぶん異なるにはせよ、コンセプトを受け継いだものとして、コンピュータRPGが生まれました。そして、これが持つ特徴=「一人でも遊べる」と結びついた結果、ポスト成長期のゲーム界で中心ジャンルの地位を獲得するだけのソフトになっていったのです。


 他、シミュレーションゲームにも、同様のことが言えます。
  例えばタクティカルシミュレーション。戦争をモチーフにしたこのゲームは、元々は実際の軍隊が作戦立案や訓練のために開発したものです。ゆえに、現実的であることが至上の要求となるため、解りやすいとか遊びやすいとかいった事情は考慮していませんでした。軍事マニアのような人種にとっては、それを理解すること自体が喜びですが、結局そういう人しかプレイしないため、アナログゲームとしてしか存在しなかった時代、きわめてマイナーなカテゴリーであり続けました。
  ところが、ソフトウェアになることで、いろいろな問題が解決しました。きめ細かなモデル化が可能になったことに加え、システム自体にプレイヤーをアシストする機能が実装できるため、格段にプレイしやすいものとなったのです。加えて、従来では導入が困難だった要素 ―例えばターン制をやめてリアルタイム制にするとか、索敵を組み込むとか― のスムーズな導入まで図れることになり、可能性が劇的に拡がったといえます。これは、戦争以外のシミュレーションゲームでも、同様でしょう。


 むろん、現実に即したモデルを構築するのは、必ずしも正しい解法だとは限りません。リアリティの導入が面白さを保証してくれるわけではないというのは、理数系だけの問題ではないのです。そして、商業版ゲームは、研修目的でプレイするわけではありません。現実を正しく再現していなくても、楽しめればそれでいいのです。
  ゲームデザイナーに求められているのは、そのあたりの取捨選択能力です。これは、ハイテクでもローテクでも、本質的な違いはありません。