◆ もうひとつのメジャータイトル | ゲームデザインエクセレント

◆ もうひとつのメジャータイトル

 1930年代に登場した『モノポリー』は、いわばスタンダードナンバーのようなもので、同じゲームモデルを採用したさまざまな製品が存在しました《*3》。日本では、『はなやまのバンカース』が有名です。地名が日本のものだったり、通貨単位が違っていたりなどのローカライズはされていますし、ルール(&それを通じて狙うゲーム性)が必ずしも同じというわけではないのですが、基本的仕組みという意味では、クローンの一つと言えるでしょう。
  一方で、全く異なるゲーム性を持つ、メジャープロダクトのボードゲームもありました。そうしたものの一つに『人生ゲーム』があります。


 こちらは、エンドレス周回型ではなく、スタートとゴールのあるシステムです。
  ボードには列になった多数のマス。これは曲がりくねった状態でボード上に描かれていて、かなりの長さです。そして中央にはルーレットが配置されています。
  ゲームは、ルーレットを回し、その数字に応じて駒を動かすことで進めます。
  各マスには、「ハンバーガーショップでアルバイト。$10,000もらう」といった形で、イベントが設定されています。この結果、お金の出入りがあったり、進行に関する例外処理(ex;一回休み)が発生したりします。そして、これらも漫然と並んでいるわけではありません。最初の方にあるのは、就職です。やがて、結婚したり子供が生まれたり家を建てたりなど、人生の節目に応じた形で、登場してくるのです。
  ゴール到達後は、手持ちの財産を清算します。全員がゴールし終えた時点で最終財産を比較し、順位を決めます。


 こちらが模擬/象徴しているのは、名前の通り「人生」ということになります。基本的に収入の方が支出より大きいので、現実離れしたほどに豊かな一生を送れるのですが、そのあたりを修正したバリエーションとして「ビター版」「辛口版」なども存在しています。また、スタンダード版でも、イベント内容やゲームバランスは、時代に応じて変化しています。昔のバージョンではやたら子供がたくさん産まれていて、車(6人乗り)に乗せきれないことが多かったのですが、最近ではそんなこともないようです。


 両者は、さまざまな意味で対極的なゲーム性を持っています。
  まず、時間軸。『人生ゲーム』は不可逆的進行です。スタートとゴールがあり、ゲームの進行すなわちエンドに向かって近づいていくことになります。一方、『モノポリー』は条件ループです。勝利条件「自分以外の全プレイヤーを破産させること」を誰かが満たすまで、ゲームはずっと続きます。
  『モノポリー』は、実際には抽象的なゲーム性を持っています。ストーリーや世界観はゲームの裏側にあり、ゲームプレイに直接関係してくることはありません。一方、『人生ゲーム』は、ある種のストーリーを演じるゲームと言えます。社会に出るところから始まり現役引退まで続く人生を、途中あれこれ発生するイベントを通じて疑似体験していくわけです。