◆ 実装と5つのフェイズ | ゲームデザインエクセレント

◆ 実装と5つのフェイズ

「実装」は、4段階では最後の部分ですが、これはさらに細かく段階化すべきでしょう。プロジェクトマネージメント技法では、プロジェクトの全体を「立ち上げ」「計画」「実行」「コントロール」「終結」の5つのフェイズで理解します。

立ち上げ段階で行うことは、目標の明確な設定です。そのプロジェクトが成立するためには、目標において次の条件を満たす明確性が必要です。(1)具体性、(2)現実性、(3)期限の存在、(4)測定可能、(5)合意が取れている、(6)責任が明確、の6つです。
  例えば漠然と「斬新な操作性のゲーム」としたとしても、これでは目標は立てられません。また、「プレイヤーの感情を読み取ってステージ展開に反応させる」といった仕様は、表情認識が画期的に向上した現在では技術的には可能かも知れませんが、ゲームソフトに許される工数を考えると、たぶん現実性が乏しいと思います。また、誰が何をしなければいけないのか不明確なままでは、肝心な部分が残ったままで進んでしまったり、いちいち判断でつかえて進まなくなったりといったことも起こります。
  特に見落とされがちなのが(4)でしょう。別の言い方をすれば、数値で表現可能なことを目標として設定する、ということです。そもそも日本の文化ではそうした考えをとることが稀で、目標と願望の区別すらあいまいなまま、景気のいいことを掲げる傾向があります。現実的な目標を設定した結果、上司から「そんな心構えではだめだ、無理を承知で挑戦しろ」などと叱責されたりする話も、よく聞きますね。
  しかし、数値化できない目標というのは、本来存在そのものがナンセンスなのです。「できる限りがんばる」などといっていたのでは、達成率が全く計算できません。つまり納期管理や品質管理などの基準が立たないと言うことで、これはプロジェクト管理では致命的です。たとえ数値を使っても、景気づけで過大な数字を書いたのでは、子供が「ひゃくおくまんえん」とかいってるのと大差ありません。
  もちろん、ゲームの価値の中には、「面白さ」とか「魅力」といった、数値化が難しそうなものがたくさんあります。しかし、そういうものが存在してるということは、一切の努力を放棄する理由にはなりません。私たちがビジネスとしてそれを行っている以上、これらは必要なことなのです。

目標が定まれば、次は計画です。これもまた、理性的な営みでなければなりません。
  ここで行うことは、作業の詳細なリストアップと、その段取りの組み立てです。
  リストアップは、階層的に行うことが効率的です。まず、大きな作業単位で並べます。次に、その中に含まれる一段階詳細な作業を並べていきます。そして、それをさらに細かな単位に落としていきます。こうして、階層的な構造で、作業のリストを作るのです。最終的には、具体的な各作業について、必要な人数および期間が、達成目標とともにまとめられることになります。プロジェクトマネージメント技術では、これを「WBS」(ワーク・ブレイクダウン・ストラクチャ)と呼びます。
  こうしてできあがったWBSですが、各項目は一直線に並んでいなければならないものとは限りません。いくつかの作業は同時進行でできるはずですし、また、工程上後の方にあっても、先行して片付けておくことが可能なものもあるでしょう。こうした点を意識して、手順を組み立てます。この時、可能であれば担当者も併記しておいた方がいいでしょう。なお、不明な部分があった場合も、前後の作業はわかるはずなので、暫定的に項目化します。
  以上をわかりやすく言えば、「何をするのか」を「誰が」「いつ」とともにはっきりさせておくということです。

こうして計画ができあがれば、次は実行です。ただ、一度動き出せば後は放っておいても大丈夫という訳にはいきません。進行が遅れたり、担当した仕事にばらつきが出たりで、あれこれ手当しなければならないものです。そもそも、スタート時点で全ての見通しが正確に立てられるというのは、プロジェクトの規模がよほど小さいか、あるいは完全な定型業務など、そもそもプロジェクトと呼ぶのに値しない仕事であるかのどちらかでしょう。計画は、実行段階で補われることが、むしろ当然なのです。
  また、途中で予期せぬ事態が発生するということもあります。さらに、仕様や納期の変更など、予定そのものを手直ししていかなければならないこともあります。そして、終了した後もそのままプロジェクトを解散して終わりというのではなく、一連の経験を次に生かすためのまとめかたがひつようです。「コントロール」「終結」の各フェイズも、現実の仕事の上では重要になってくるのです。