第2回 ゲームデザインの客体 その1
ゲーム 【game】
1:(勝ち負けをあらそう)遊び。遊技。「トランプー」
2:(スポーツの)試合。競技。また、その回数。
3:テニス・卓球などのセットを構成する単位。
4:ゲーム-セットの略。
三省堂「大辞林 第二版」より
初めてゲーム会社の人と会ったときのことを、ときどき思い出します。
社会人4年目のその頃、ゲーム業界への転職を志すようになりました。一介のファンにすぎなかったのですが、以前から持っていたクリエイター志向と合わさることで、『ゲームデザイナー志望者』となったのです。ある日、名前をよく知っていた会社が求人広告を出しているのを見つけ、自分なりに作っていた企画書を携えて訪問しました。
応対してくれたのは、いかにもやり手のビジネスマンといった感じの男性。しかし、私にとってこの人はまさに導師でした。業界の仕組みや仕事の種類や内容、さらには開発チーム内での実際の役割や立場といったものなど、決して本では得られないような熱い話を、2時間以上にわたって聞かせてくれたのです。このときの経験から、自身がゲーム屋となってからも、同種の相談を受けたときにはなるべく誠実に......その誠実さは、時として残酷ともなりますが......応対しようと心がけています。
さて、その席上で、最初に言われたことがあります。持って行った企画書を一通り見た後のことです。
「ゲームの本質が何なのか、わかりますか?」
この問いかけと回答は、今もまだ対面し続けている、ゲーム屋人生を通してのテーマとなっています。
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第2章となる今回は、ゲームデザインにおけるデザインすべき対象、つまりゲームそのものに関する話です。前回のテーマだった「ゲームデザイン」ですが、話の前提として、それが「ゲーム」に対する何かであるという点は共通です。では、この"ゲーム"という概念は、あらためて定義する必要もないほどに自明なものでしょうか。
クリエイター志望者は、たいていは自身もゲームファンです。そのため、自分のプレイヤー経験を元に、無言のうちに「エンターテインメントとして作られた、コンピュータソフトウェア」といった範囲に意味を絞り込んでしまっていることが多いでしょう。しかし、ゲームという言葉の意味は、想像以上に広いのです。しりとりだってハンカチ落としだって、ゲームです。そして辞書をひけば、冒頭で挙げたようなさまざまな定義が並びます。この辞書ではどうやら勝負事を中心に捉えているようですが、英語辞書で"game"を調べると、もっと広範な意味が並んでいます。こうした指摘は、ただの言葉遊びのように思えるかもしれません。しかし、実際には大きな意味を持っています。一般的なコンピュータゲームをやっていて面白いと感じるときの心のあり方は、そうした広義のゲームにおいても共通するからです。
現実的にも、境界領域での仕事として関わってきます。一般にゲーム会社の事業範囲は多彩です。大きな会社ならコンシューマ事業とアーケード事業の両方はありますし、後者の一部として直営のゲームセンターを持っていたり、またホテルやショッピングセンターのアミューズメントコーナーにも関わっていたりと、幅広くビジネスを展開しています。また、パチンコ産業との関わりも、会社によっては濃厚です。
では、そうした境界領域にあるもの――UFOキャッチャーやプリクラ、スロットやコイン落とし、パチンコ・パチスロなどは、ゲーム性ということと無関係なのでしょうか。そうでないことは、特に証拠を挙げるまでもなく、明白だと思います。また、今のようなゲーム業界が成立する以前から存在する「商品化された遊び」もたくさんあります。『モノポリー』や『人生ゲーム』に『野球盤』など。こうしたものにも、同じことが言えるでしょう。
結局、ゲームにまつわること全てを漠然と対象にしてしまったのでは、最優先ですべきことがぼやけてしまいます。「ゲームの本質とは何か」という問題は、避けて通れないものなのです。