◆ ゲームデザイナーが創るもの | ゲームデザインエクセレント

◆ ゲームデザイナーが創るもの

この、「ゲームの本質=ルール」という視点は、かなりの切れ味を持つツールです。例えば前回で取り上げた"不可解な志望者"がなぜ通用しづらいのかに関しても、明解な答えを与えてくれるでしょう。
 ただし、本質を捉えることは、必要条件ではあっても十分条件ではありません。もし「それさえあればOK」ということなら、そもそもコンピュータゲーム自体が不要だったはずです。そこで、「エンターテインメントとして作られた、コンピュータソフトウェア」に特化した意味での"本質"を考えてみる必要があります。


 先述のように、一部のゲームカテゴリーはコンピュータの前から存在します。ただ、RPGにしてもシミュレーションにしても、コンピュータ化によって獲得できた大きなメリットがあります。それは「一人でも遊べる」ということです。
 実際、これらのゲームの複雑なルールは、プレイヤーを選ぶという点で大きな問題でした。そしてルールを理解している人間が数人同じ場所に集まらないと始められなかったわけで、プレイそのものの機会が得にくいものでした。この「一人では遊べない」というのは、囲碁将棋や麻雀などテーブルゲーム/ボードゲームの一般的問題点でもあります。
 では、なぜ一人ではだめなのでしょうか。ここで指摘したいのが、私が"アクション→リアクション"関係と呼んでいるもの。つまり、「何かをすればそれに応じた何かが起きる」という状況です。娯楽として存在するためには、これは欠かせません。ルールを覚えるための過程で、一人で駒を並べて動かしてみたりすることはあっても、それはゲームにはなりません。自分のアクションに対して、何のリアクションも来ないからです。ゲームのコンピュータ化は、何よりもここの点で大きな福音をもたらしたのです。一人でも遊べるということから、まずプレイ機会自体の制限がなくなります。徹夜につきあってくれる相手がいなくても、夜通し遊び続けることができます。そしてわかりやすさにもつながります。テーブルトークRPGのルールブックを熟読したとしても、自分が正しく理解できているのかどうか保証はありません。しかしコンピュータRPGの場合、そんな心配は不要です。試しにやってみればいいのです。
 また、アクション→リアクション関係には、もっと感覚的な快感という要素もあります。例えばドラクエには、しばしばパズル的なマップが登場します。VIIの場合のカラーストーン。押して並べることで石が砕けて道が開くのですが、この「押すと動く」や「並べると割れる」がそれ自体けっこうおもしろくて、特に必要もないのに押しまくってしまったりするでしょう。他、『テトリス』におけるパネルの回転など、単に感覚的に気持ちよくて、必要ないときにもつい続けてしまうという場合があります。 
 アクションゲームの場合、この両面とも直結してくるでしょう。方向キーを入れるとその方向に進み、ボタンを押すとジャンプしたりダッシュしたりする......初期のアクションゲームはたいていそんなものでした。きわめて直感的でわかりやすい反応です。ゆえに、始めた次の瞬間からゲームに入り込むことができます。それが感覚的な快感を伴っていれば、続けてプレイし続けるでしょう。そしてその中で試行錯誤を進めていくことで、上達することができるのです。


 アクションに対してどうリアクションするのかは、直接に反応するだけではありません。間に演算を組み込むことができるということです。
 ファミコン時代、『燃えろプロテニス』というゲームがありました。それまでのテニスゲームと決定的に異なる点がありました。「反応までに時間がかかる」ということです。例えば球を追ってダッシュする場合。従来型テニスゲームでは、方向キーを入れた瞬間にトップスピードで動き始めますが、"燃えテニ"はそうではありません。加速するまでに時間がかかるのです。そして、止まるときも瞬間的には止まれません。二三歩ほど惰性で歩いてからやっと止まります。
 これは、プレイヤーへの意地悪のためではありません。シミュレーションを指向しているのです。単純に作ることもできるアクション→リアクション関係にあえて関数をひとつ設けることで、現実の人間の動きに近づけているということです。今にして思えば、処理能力の低かったあの時代によく頑張ったものですが、当時は「操作性が悪い」と断罪され、このゲームに対する評価も概ね厳しいものでした。しかし、その後のスポーツゲームを見れば、正しい方向性であったことがわかります。
 何かをモデル化してシミュレートしてみるというのも、遊びの世界では一般的です。アクション→リアクション関係という軸の中、それを高水準で実装できるのが、コンピュータゲームの強みといえるでしょう。ゲームデザイナーは、当然ながらそこまで創り上げていかなければなりません。