◆ 不可解な志望者たち | ゲームデザインエクセレント

 ◆ 不可解な志望者たち

 ただ、いろいろな形でゲームデザイナーの存在が強調された結果、おかしな虚像ができあがってしまったのも確かなことです。私自身、暗中模索な思いのまま応募し、企画職としてゲーム会社に入ったのですが、さらに入社後採用選考も担当したことから、自分以外の様々な実例と向かい合うことになりました。
 冒頭に挙げた問い合わせの電話は、もちろん架空の例です。ただ、要素単位では、現実に即しているのです。「企画書ってどう書けばいいんですか?」など何度問い合わせを受けたのか数え切れないですし、
   「プログラムも絵もできないから企画にする」
   「大学進学をあきらめ就職することにしたが、
    どうせ就職するなら好きな分野がいいと思い、ゲーム会社を選んだ」
   「頭の中で次々にゲームのアイデアが沸いてくるから自分にはできるはずだ」
 なども、実際に志望者の中から出てきた言葉です。
 この背景には、クリエイター採用の難しさがあります。クリエイターは「作る」仕事なので、選考に当たっては何らかの形で実力を見せてもらう必要があります。会社によって違いはありますが、たいていは志望職種に応じた作品の提出です。具体的には、プログラマであれば自作のソフト、ゲームデザインなら新作ゲームの企画書ということです。
 そしてこれが、"彗星のごとくデビュー"を夢見るゲーム少年たちの志望を、何よりもゲームデザイナーに引き寄せる結果となったのです。志望者から見れば、「プログラマは敷居が高い」となってきます。何しろ、自分でゲームプログラミングができない限り、応募すらできないわけですから。


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 さて、"困ったお友達"は、問い合わせ段階ではともかく、その先では多数派ではありません。実際の応募に至る人たちの大半は、もっと真剣な志望です。ただ、その真剣さが必ずしも的を射ていないというところがありました。「ゲーム企画書を送ってね」と言っているのに、ゲームではないものを提案してくる志望者が、実に多かったのです。
 ざっと類型化してみましょう。

1.物語
 RPG全盛期だったという事情もありますが、実際にいちばん目立ったパターンでした。ゲームではなく、またどのようにゲームになるのかも明示しないまま、物語を送ってくる人が多かったのです。
 レベルやスタイルは千差万別です。あらすじ程度の場合もあれば、小説や映画脚本の形をとったものもあります。また、時として壮大なスケールの作品にもなってきます(センチ単位の分厚さを持つ作品も、何度か受け取ったことがあります)。そしてもう一点、完結しているかどうかという点でもまちまちでした。ゆえに、「これは、ぼくの考えた壮大な物語の第一部の序章部分をまとめたものです」と称するレポート用紙一二枚の"作品"なども、結構ありました。

2.ワールド設定、キャラクター設定
 上とは対照的に、設定だけがまとめられているような作品も少なくありませんでした。
 RPGであれば、冒険の舞台となる世界に関することがら(地名であったり文化歴史であったり)や、武器・防具・魔法のリストなど。シミュレーションゲームの場合、ユニットの種類と名称など。これには詳細なパラメータ一覧表を伴っている場合もあります。
 こちらも、規模・形式・分量はまちまちです。レポート用紙1枚で語りきっているものもあり、また大学ノートを細かい文字で埋め尽くしたようなものも、しばしば見られました。

3.改良案
 既存のゲームを前提に「ここをこう変える」という形の提案です。はっきりと「***の続編です」といってくる場合もあれば、オリジナルと称してはいるものの、内容的に既存ゲームの改良あるいは改造に過ぎないものもあります。

4.単発のアイデア
 一つだけの場合もあれば、多数を羅列してくる場合もあります。レベルはさまざまで、
   「右手と左手で別のパラメータを割り当てる。右利きと左利きで、戦闘時の有利不利を区別する」
   「『強さ』『知性』などのパラメータに、『気合い』を加える」
 など、ゲームの中で使われる断片的なアイデアや、また、
   「3本分のシナリオを序盤・中盤・終盤で3分割し、
    各ポイントで交互に分岐するように作って、1本で9本分楽しめるストーリーゲーム」
 といった、大きな枠組みに関するもの、さらには
   「テトリスのような落ちものパズルに、シューティングの要素を加える」
 なんていうゲーム構想のスタート段階でのアイデアなどもありました。

5.タイトルと特徴
 ペラ1枚でまとめられたものの中で多かったのが、この類型です。例えば、こんな感じで。
   「ザ・農村  農業シミュレーションゲーム
    このゲームは、土作りから収穫に至るまでの過程をリアルに再現した、斬新なゲームです」
 何か題材を選び、具体的なゲームシステムには言及しないまま「......のシミュレーション。......を緻密に再現する」とだけしているような企画書は、決して少なくありませんでした。題材の部分に聞き慣れないものを入れることで「ユニークなゲーム」になることを期待している場合が多いように思われます。

6.方針、目標
 上のものと同様、ペラ1枚の作品に多いパターンで、
   「猛烈に速くて、敵がいっぱい出てくるシューティング」
   「若い女性向けのゲーム」
 など、単に方針あるいは目標としか言いようのないことが堂々と書かれていたりします。
 また、5と6のコンビネーションという場合もあります。こうした企画書は、造り自体はかっこよく決められている傾向がありました。

 実は採用選考という局面では、こういったものでも可となる場合があります。なぜなら、コンテストではなくオーディションだからです。会社が"買う"のは「作品」ではなく「作品を作った人」です。緻密な設定に基づいた面白いストーリーの作れる人は、他のことをやってもうまくできる可能性が高いでしょう。単発のアイデアだって、数が出せるのなら捨てた物ではありません。
 しかし、だからといって「これらがゲームデザイン」という訳ではありませんし、ゲームデザイナーがしなければいけない仕事において、どれも本質とは言えません。