日蓮水

 「長勝寺」のバス停から逗子方面に50mほど歩くと、左手に、「銚子ノ井」の石碑がある。その細い路地を入ると、「銚子ノ井」がある。「銚子ノ井」は鎌倉十井の一つで、井戸の側面も蓋も石でできているので、「石ノ井」とも言われるが、長勝寺の石井長勝が作ったとか、山号の石井山(せきせいざん)に因んで石で作ったという説もある。

 「銚子ノ井」の由来は井戸全体の形が長い柄の付いた“酒を注ぐ道具”の銚子に似ていることから名付けられたようだが、井戸の内側は円形で、外側は六角形である。石の蓋は六枚の花弁に似た形で、中央が盛り上がっている。

 さらに、「銚子ノ井」の路地を奥に進み、突き当りを右折して、70mほど行くと、左側に石の柵で囲まれた古い井戸がある。この井戸が「日蓮乞水(にちれんこいみず)」と呼ばれるもので、鎌倉五名水の一つである。

 伝説によると、建長五年(1253)5月、日蓮が鎌倉に出てきたとき、ここで水を飲みたくなり、杖を地に突き刺すと、そこから水が沸き出たということである。水はそれほど多くなかったが、枯れることもなく、どんな日照りの年でも、水が流れ出ていると言われ、名越切通を守る人や通行人にとっても貴重な水だったようだ。

 水が不足がちだった鎌倉では、おいしい水に関わるいろいろな話が伝わる井戸や名水がある。

 その中で、鎌倉十井と言われるものは、「銚子ノ井」、「鉄ノ井(くろがねのい)」、「底脱ノ井(そこぬけのい)」、「星ノ井」、「棟立ノ井」、「瓶ノ井」、「甘露ノ井」、「泉ノ井」、「扇ノ井」、「六角ノ井」で、鎌倉五名水は「日蓮乞水」、「銭洗水」、「梶原太刀洗水」、「金龍水」、「不老水」である。