ショートスティで 

介護の仕事を していた時のお話し

 

 

*   *   *

 

 

 

泊まりに来た

100歳に近いばば様

 

 

背が小さくて 髪は抜け

歯がないので 顔はまんまる

 

車椅子の上に ちょこんと座り

曲がった手は ひざ掛けの中

 

 

眉間にちょこっと 皺を寄せ

困り顔

 

 

 

挨拶して

お天気の話をして 

体調を訪ね

 

ストレートに 

「今日は お泊りに

 来たくなかったのではないか?」

と聞いてみる

 

 

 

しわしわの顔に ますますシワが増え

くしゃくしゃのお顔して

涙ぽろりで 言葉溢れる

 

 

歯がないし 田舎の言葉だし

口が乾いて 声枯れているし

 

 

聞き取りにくいのを 

必死で傾聴して

溢れた言葉と言葉を

繫ぎ留める 

 

 

・・・

 

死ぬまで 家においてくれ

死ぬまで ごはん食べさせてくれ

 

死ぬまで ここにおいてくれ

おいてくれ おいてくれ

 

・・・

 

 

何かあったのか

何があったのか

 

痛々しい心

まる出しの言葉とは うらはらに

その泣き顔は

赤子のように 可愛らしい

 

 

ばば様の胸の内は 計り知れない

 

 

身体が動かなくなっていく ふあん

迷惑をかけすぎているんじゃないかという ふあん

自分がどうなっていくのかわからない ふあん

 

 

 

 

 

ただただ 手を摩り こころ受け留める

 

 

「死ぬまで 家にいたいのね

 死ぬまで ごはん食べさせてほしいのね」

 

 

泣き止んで 落ち着くまで

くり返す くり返す

 

 

 

ただ ずっとみている

何ヶ月も 何年も

 

ちょっとずつ ちょっとずつ

身体が 動かなくなっていくのを

 

ちょっとずつ ちょっとずつ

ごはんが食べれなくなっていくのを

 

ずっとみている

 

 

 

何もできなくなっても

あなたは 愛おしい

 

ひとりひとりが みんなそう

 

 

 

 

 

 

人は

お歳を召せば 召すほどに

どんどん ピュアになっていく

 

 

よぼよぼになり

しわしわになり

 

 

何か病気をしたり

骨が曲がって 痛いところがでたり

 

 

みんな みんな そうやって

そうやって 命を終える

 

 

 

それが 美しくて 愛らしくて

いつも いつも

心が動いちゃうのね

 

そんな仕事なのね