"逆"需給ギャップ解消の方法 〜小麦生産現場における対応〜 | No Bread No Life

"逆"需給ギャップ解消の方法 〜小麦生産現場における対応〜

逆需給ギャップ解消の方法は

少し前に考えていた「小麦が足りなくなる」ことが数値として出てしまいました。
農水省が発表した資料を見て、それが現実として現れたのでブログに書き留めておきます。

この状況は、農家さんも薄々気がついていたようです。
ただ、気がついてはいても組織の指導の元で、来年は(今年は)どうするかがある程度決まるので個人の希望が活かされることもあるし、活かされないこともあるものなのです。
全体の計画とバランスがあるものなのです。
なので、組織の考え方や方向性がとても重要になるのです。

さて、今日の本題へと入ります。

■「足りない」北海道産小麦の現実が明らかに。
参考資料:農林水産省 麦の需給と価格について/麦の需給に関する見通し28年3月「参考資料」から引用
http://www.maff.go.jp/j/seisan/boueki/mugi_zyukyuu/pdf/28mugi_sankou.pdf

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参考資料によると
今年の小麦需給バランスは、前年とは逆転し、供給不足になるとのことです。
(表III-9「国内産食用麦の販売予定数量及び購入希望数量の推移」参照)

これまでは、供給量が需要量を上回り、生産した小麦の買い手が付かずに余るという(需給ギャップ)が続いてきましたが、今年はその「逆」で、需要量が供給量を上回り、足りないという状況になります。つまり、”逆”需給ギャップが起きます。

データでは、14,000トンが供給不足になる計算ですが
この数値を作付け面積に換算しますと
(北海道平均反収430kgとして計算)3,256haの作付けが必要になります。

これは、丘の町として有名な美瑛町の小麦の作付け面積(3,200ha 19,000t)とほぼ同等です。
北海道農政事務所 27年産統計資料より(28年3月28日発表)引用

農家さん1戸当たり3haの作付け増をお願いするとして
1085戸にお願いしなくてはならないという数字です。

ちなみに1戸当たりの耕地面積の全国平均は2haです。北海道平均は24haです。
小麦の最大作付け・生産量を誇る十勝地方の平均耕地面積は約40haです。

十勝の農家さん1戸当たり4ha(畑1枚分)の作付け増をお願いするとしたら
814戸にお願いしなくてはならない計算です。

いずれにしても、「足りないから来年から増やして欲しい」と簡単にいえる数字ではありません。

まして、小麦の最大産地十勝においても、輪作のバランス、収益のバランスから小麦の作付けを減らしている地域があるほどです。
つまり、小麦の作付け増は期待出来ないということです。



■作戦その1「反収アップ」
そこで、「反収を増やして足りない分を補う」という方法の方がより現実的といえます。

現在、十勝の反収は460kgです。
これを487kgまで増やせば、なんとか不足分を補える計算です。

十勝の作付け面積46,000ha 反収487kg
十勝における生産目標数量 224,000t

実は、過去にこの目標反収487kgを大きく上回っていた時期がありました。
平成10年から20年の10年間は最高反収が597kgと大きく上回っていました。

ホクシン時代です。
現在はきたほなみが主流ですが、最高反収を更新していた時期に栽培していたのが秋播き小麦のホクシンでした。
昨年2015年こそ、天候に恵まれて、きたほなみの性能が充分に発揮されたので反収が一気に600kgを超え、1,000kgに達するという記録的な豊作年になりました。

だからと言って今さらホクシンに戻しましょう。と言える立場には私はありません。

きたほなみ はオーストラリアASWと匹敵するうどん用小麦として非常に評価が高いのです。
これはホクシンではありえなかった高い評価です。
(一部、パンにおいてはホクシンの方が味が濃くて旨かった という声もなきにしもあらず)
順番に進化を経て来た品種変遷ですから、きたほなみに頑張ってもらわなければなりません。

この十勝の記録的な豊作が牽引し、これまで国内総生産量が6割だったのを7割にまで引き上げました。きたほなみ もやれば出来るのです。


■歴史的豊作を上回る「市場の需要増」
十勝では、歴史的な豊作とさえ言われた2015年の収穫量でした。
しかし、喜んでばかりはいられません。
北海道の総生産量が550,000トン(国内総生産量950,000t)まで増えたにも関わらず、それを上回る需要増が起こり
今回の統計において「14,000トンが足りない」ことが明白になったのです。

総生産量が増えたにも関わらず、それでも足りないという
『 急激な需要増が今、市場で起きている! 』ということです。

ですから、なおさら反収を増やす努力をしなくてはならないのです。
今年の収穫も昨年同様に豊作が見込まれるという保証はどこにもありません。
それが農業というものです。



■全道規模で展開する「反収増作戦」
そこで そこで第2案です。

小麦生産量第2位のオホーツクに期待します。
実はオホーツクは、生産量こそ2位ですが
反収が素晴らしく高い!のです。

反収平均が500kgを余裕で越えています。

それだけ小麦生産に適した地域であるということと、営農努力が下支えしていることが結果につながっていると推察します。

このオホーツクに、生産のさらなる安定を計って頂き
その上で
十勝を含む空知などの小麦に理解のある地域が反収アップに乗り出せば、現実的に不足分をまかなえるのではないかと考えます。

農業は輪作や営農計画のバランスにより、小麦ばかり作付け面積を増やすことは現実的ではありません。
それだけに、全道規模で展開する「反収増作戦」しか残された方法はありません。


■育種家と農業試験場の協力が必要不可欠
そこで要(かなめ)になるのが、農業指導と品種改良という育種家と農業試験場の協力が必要不可欠になってきます。
技術を持つ方の、知識と研究成果が今こそ発揮される時なのです。
輪作のバランスを保ちつつ
作付け面積は現状のままで反収を上げ
前年同様の収量を得るための予測と計画的な栽培指導の徹底的な実践と普及です。

そして、より効率的な作業を適切なタイミングで行うための機器の整備、および導入。
もしくは知恵の活用です。

ある方は、「金はなくとも知恵と知識と根性はある」と話していました。

農業は大変な体力と忍耐が必要です。
機械に任せるところは任せ、知恵と知識と、先祖代々受け継いで来た「開拓者魂」と仲間同士が支え合いながら乗り越えてきた歴史がこの土地にあります。
これまで培って来たものを武器として活かし、全体が一体になり動かなければならない時期が来ているのです。

人と人が得意な分野の知識を持ちより連携することで、この困難な状況を打開できるものと信じています。
特に、ある分野に特化した知識を持つ専門家(その道の人)がその「個性」を活かさなければ、おそらくはこの困難を乗り越えることは難しいと思います。

個が活かされ、全体が動く。

リーダーシップを取るのは、こうした「個性」を持つ専門家の発言から始まるような気がしてなりません。




■参考資料:内麦と外麦の価格差

国内産の小麦価格と輸入小麦の価格が発表されました。
差はこんな感じです。
見て頂きたいのは、国産小麦の価格が前年より上がった という点です。
欲しい人が増えたので価格が上がったのです。
そして
量も足りない という現状ですので
さらに国産小麦の価格が上がり
現在 1,500円ほどの差が、さらに開くことが予想できます。

と、なるとせっかく、内麦人気が高まり、需要が増え、使用実績が出来たにも関わらず
値段が上がるとなると また以前のように「国産小麦は高いから使えない」という
「内麦離れ」が起きるかもしれません。
少なくとも、入札価格が上がれば、必然と小売り価格も上がります。
この値上げにもマケズ、それでも国産小麦を使いたい。買いたい。食べたい。というユーザーと消費者が 今後の値上げにどこまでついて来てくれるのでしょう。
そして
供給側はこの課題にどう取り組んでいけば良いのでしょうか・・・
困難な道は続きます。

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