「理佐なんて大っ嫌い」


「もう別れるっ!」






掴まれた右手を振り払って、玄関に置かれていた財布を持って勢いよく扉を開けた




「由依!」


後ろから足音と共に聞こえてくる声を無視してエレベーターのボタンを押して、




後ろを振り返ると理佐がもう少しのところで扉は閉まった


喧嘩の原因は些細なこと


ずっと楽しみにしていたデートが理佐の仕事で延期になってしまったから


デートが急な仕事で無くなることは珍しくない
だからそこに怒ったんじゃない


急な仕事で予定が変更になる時は共有のカレンダーに入れるだけじゃなくて、

口頭で伝えるのが約束


なのにそれを言わない理佐が悪い





怒って出てきたものの、

11月の寒さが私の体を痛いくらいに突き刺す




お風呂上がりで理佐とお揃いのジャージ
上も羽織らず出てきてしまったから寒い



冷たい風は、服を間を通り、私の体を冷やして
いく




この冷たさと理佐に言ってしまった後悔とが、私の心を痛める




理佐と喧嘩したらいつも私が出ていく



いつも必要以上のことを言ってしまって苦しくて逃げてしまう




今日はいつも以上に言いすぎた
もっと遠くへ行こう



理佐が迎えに来れない場所に、、、



理佐とよく行くカラオケを通りすぎて、5軒先のカラオケに行く




着いた途端、メニューを広げ特盛ポテトとピザと特大パフェを頼む



喧嘩した時のいつもの流れ



理佐と出会った初めの曲


サイレントマジョリティーを歌って


初めて代役のセンターを任された黒い羊



僕のジレンマを歌い終わると全部の料理が届いていた



何か曲を聞いていないと正常な自分で居られない気がして、、


適当にランキングに入っていた曲を大音量で流す




ポテトを手に取って頬張ると目が涙で溢れてきた


失恋ソングは付き合っている時はただいい曲なのに、別れを伝えてから聞くと、涙が出てくる


迎えに来て欲しくないためにここに来たのに迎えに来て欲しいと願ってしまう



「由依、帰るよ」



息を切らした理佐が入ってきた



手を引っ張られ勢いよく立ち上がる



目を合わせてくれないくせに優しくダウンを着せてくれる



握られた手は冷たくて、

風になびかれた髪から見える耳も、

後ろを振り返った時に見えた鼻も赤くなっていた



家に帰るとダウンを脱がされ、お風呂場に連れていかれる


タオルを頭にバサッとかけられ、私の好きなバスボム手に乗る


「30分まで上がってくるな」


今はちょうど1時


素直に服を脱ぎ、バスボムをポチャっと湯船の中に入れる


理佐と入る時に匂うこの金木犀のバスボムの匂いは甘くて好きなのに、

1人で入るお風呂のこの匂いは寂しさが押寄せる



ちょうど30分


上がると理佐が髪の毛を乾かしてくれた


「ありがとう」と言っても返事が返ってくることはない



乾かし終わると、温かいココアが置かれた



いつも一緒に見ているドラマから流れる音が無言の苦しさを少し和らげてくれる


ぎゅっ、、

テレビに向いていた視線を下に下げる


理佐が私に抱きついてきた



「嫌いって言わないで」
「別れるって言わないで」


「私、由依がいないと生きていけないから」



言いすぎてしまった後悔と、理佐の久しぶりの弱さに心が苦しくて、温かくて、ギューッとなる



私よりも長くて細い腕で、私の体が包み込まれる
温かくて、心地よくて、、、




「私もごめん」
「言いすぎた」



「私の事許してくれる?」

久しぶりに目があった
その目は、涙でいっぱいになっていた


「いいよ、理佐大好き」

「これからはちゃんと言ってね」


私も理佐を抱きしめる


「私も大好き」
「ありがとう」


喧嘩したら辛いし、嫌になるけど、やっぱり理佐が好きで大好きで、どうしようもなく愛したいと思う


そうやって笑って喧嘩して

1日1日が幸せだ