「そんなに見るなら話しかけてきたら?」



TGCの控え室に帰ろうとした時、マネージャーさんが小声で言ってきた




私が「ん?」という表情をしていたら、あの人だよと言うように小声でさらに付け加えた



「由依だよ、由依」




「櫻坂卒業してからTGCの時とかいつも見てるよ」



何となく気づいていたことを言われると恥ずかしくなる









「由依の出番終わったし、夏鈴と天も多分控え室抜け出して、ブラブラしてるだろうなぁ




「話すなら今だね」



控え室について一息ついているとまたマネージャーが独り言のように話している




来てしまった、、、
マネージャーの小言に釣られて足を動かした




「コンコン」


櫻坂46と書かれた文字を確認してドアをノックする



「渡邉理佐」ですと言うと、由依の「どうぞ」が聞こえてきた




「よっ」




久しぶりに正面から見た由依になんて声をかければいいかな分からなくて、、、


ぎこちない挨拶をしてしまった


「よっ」



ポーズまでつけて返してくれる



「夏鈴ちゃんと天ちゃんは抜け出して、散歩行ったよ」


「いつもの事だね」


櫻坂46として出ていた頃のことを思い出すように語ると懐かしく感じた



コーヒーを出してくれて



由依は前に座ることもなく、隣にちょこんと座った


コーヒーを一口飲んで、



「最近、楽しい?」


何気ない会話をするように、隣の由依に聞く


「楽しいよ」




「海外の人にも会えて、自分の仕事あって、大変だけど楽しい」



ほんとに楽しんだろうなっていう表情で安心した


「そうだ」
「舞台見に行ったよ」


「いつ!?」


相当驚いている顔だった


「誕生日の次の日」



「気づかなかった、、」


「でも、お忍び行ったからね」



お忍び?という顔だ



「黒い帽子かぶって、黒いマスクつけて行ったから」


「不審者じゃん」


由依を驚かしたくなくて、何も言わず、自分でチケットを買った



「舞台、どうだった?」


不安そうに聞いてきた


「由依が登場してすぐ泣いた」



「櫻坂の由依が、俳優としてその舞台に立ってて、かっこよかった」



「ありがとう」



「なんかアイドルだった頃は何も思わなかったのに、卒業してから由依の事目で追っちゃうんだよね」


言おう思っていなかったことが口から出た



由依が返事を返してくれる前に、天ちゃんと夏鈴ちゃんが帰ってきた



そうすると由依は、すぐに控え室の端っこに行ってしまった



しばらく話して、じゃあねと声をかける前に由依を見るとスマホ触っていた



「ピコンっ」


自分の控え室に戻ると、由依の住所と今日来ての言葉が来ていた



言われた通り、仕事を終えて由依のマンションに行った



インターホンを鳴らすと部屋着でメイクも落としていた由依がドアを開けてくれた




「部屋新しくしたんだね」


部屋に入ると1人にしては十分すぎる広さの部屋だった




「荷物とかあれこれ考えてたからこれくらいの部屋必要かなって思ってたんだけど、、、」



「引っ越す前に色々整理してたらなんか減っちゃって寂しい部屋になった」





由依の家にこうやって私が来たのは私が卒業した日に由依の家で晩酌をした以来だ


でも、前の家とは背景が全く違った

なのに、一つだけ何も変わってないものがあった



「ソファーは変えてないんだね」



紅茶を入れてくれて、そのソファーに座る



「理佐が選んでくれたのだから、変えられなくて」


このソファーは由依と初めて遊びに行った時に私が選んだものだった



2人してこれだ!と意見が一致したソファー



「それに、欅坂になって買ったものだから、櫻坂卒業するまで変えないでおこうかなって考えてる」



「このソファー座り心地もいいもんね」


たわいない会話を交わし、由依がそろそろ本題だと言わんばかりに、必然的に目が合った


「あのさあ、控え室で最後に言った言葉、私も同じだから、、、理佐からその続きの言葉が聞きたい」



どう伝えればいいか、どう伝えればわかってもらえるのか、その緊張から喉が渇いて


私好みに調節された甘さの紅茶を飲む



甘い紅茶が喉を通り、胃に入るタイミングで口を開く



「櫻坂の時、由依は私の必要不可欠な存在で、私の相棒のような存在だった」


淡々と由依に抱いている思いをそのまま伝える



由依も私の言葉を上手く理解しようとしてくれていた



「良いパートナーっていう表現が正解か分からないけど、由依の存在は私にとって多いかった」



「だから、由依の事を思う気持ちはそれ以上でもそれ以外でもなかった」



一区切り終えると由依が口を開く



「確かに、私も理佐は必要な存在だったし、心強かった」



次の言葉を言う前に紅茶を1口飲む




「櫻坂を卒業して、一緒に仕事した時、他のメンバーに会える嬉しさよりも由依に会える嬉しさの方が上だった」




「仕事とか、事務所で見かけた時、由依の横顔とか後ろ姿を見ちゃうようになった」



「ふとした時、これは恋なんだなぁって」


「好きになったのが由依で、たまたま由依は同性だった、、」



次の言葉はと、問いかけるようにまた目が合った



「私は由依を彼女にしたい」


由依の返答を待つ間が長く感じて、手汗が滲む



「私も理佐の彼女になりたい」



その言葉を聞き、隣にいる由依を優しく抱きしめた


ダンスの振りでこうやって抱きしめたことはあったが、、、


抱きしめただけでこれだけドキドキするのは初めてだ



由依のシャンプーの匂いと由依の匂いの甘さに酔ってしまいそうだった


好きとお互いの気持ちがわかった時、これ以上の嬉しさはない


キスをして、また抱きしめて、

彼女になったことの嬉しさを分かち合う



キスをする度に、由依の体温を感じて、甘くもっとしたいという気持ちが増した




たまたま好きになったのが同性、、
ただそれだけだ

恋人を大切にする気持ちも普通の恋愛とか変わらない