覆水(ふくすい)、盆(ぼん)に返らず
一度こぼした水は、もうコップにもどすことはできない。
高市首相は11月7日、台湾有事で軍艦を出せば存立危機事態になりうる」と発言し、日中関係が危機的な事態になっている。日本が中国と約束した日中共同声明などの外交文書でも「台湾は中華人民共和国の不可分の一部」と明記しており、日本が台湾問題に口をはさむこと自体が内政干渉だ。
しかも、「存立危機事態になりうる」というのは、そこに自衛隊が武力介入する可能性を明言したもので、これは「侵略するぞ」という脅しだ。中国が怒るのは当たり前である。
今の若い人はあまり知らないかもしれないが、日本は1894年~95年の日清戦争で中国から台湾島を奪い取り、50年にわたって植民地支配した。1945年に日本は侵略戦争に敗け、台湾島を中国に返還した。
しかし1949年に中華人民共和国が建国されると、大陸から追い出された国民党の蒋介石一派は米軍の助けを借りて台湾島に逃れ、台湾島民を武力で抑え込み、その時に布告した戒厳令は1987年まで38年間も続いた。日本は1972年の日中国交回復まで、そうした武断支配をつづける台湾の国民党政権(中華民国)を、中国の代表政権として支持し続けたのだ。
安倍首相が言った「台湾有事は日本有事」という言葉は、旧宗主国というゴウマンなおごりから出た言葉だ。中国からしてみれば、「台湾の問題に関して、お前ら侵略者に発言する資格は一切ない!」ということになる。また「再び中国を侵略してきたら絶対に許さない」というのは
中国人共通の気持ちだ。台湾の色々な民主団体からも、今回の高市発言に対して抗議の声が上がっている。
これまで自民党政権は「存立危機事態」がどういう時なのか?については「個別具体的な事態の状況によって判断されるものであり、現時点で断定的に申し上げることは控えなければならない。手の内を見せることになるので得策ではない」(岸田前首相)としてきた。
今回高市首相は、「手の内」を見せた上で、「発言は撤回しないが、真意はこれまでの政権と同じだ。」ということで幕引きにしようとしているが、これでは「幕引き」どころか火に油を注ぐようなものだ。これまでの自民党政権も、口にこそ出さなかったが、「台湾で事が起これば軍事介入しようと考えていた」ということを解説しているようなものだ。
すでに本音を言ってしまった以上、そんなに簡単には収まらないだろう。問題を解決するには、高市首相は「私の考えは日中共同声明に違反し、間違っておりました。これまでの考えを改め、これからは日中共同声明、日中平和友好条約の精神を順守し、日中友好に励んでまいります。」と言う以外にないだろう。そしてそれを実行する以外にない。
日本の貿易総額に占める中国の割合は20%、中国の貿易総額に占める日本の割合は5%だ。ケンカをして断交すれば大きな被害を受けるのは日本の方だ。
トランプも最初は中国を最大のターゲットにして関税戦争を吹っ掛けたが、みじめな敗北に終わった。最近トランプから高市に「中国を刺激するのはやめた方がよい」という電話があった。高市首相は自分のメンツのためにワシラの生活を犠牲にするな!(山橋)