ラブライブサンシャイン①の続き

 

「何かに夢中になりたくて、何かに全力になりたくて、脇目も振らずに走りたくて、でも、何やっていいかわからなくて」

千歌が探しているのは、全力になれることでした。(わたしはいいかな)をやめて、動き出したい。

普通の日常から夢中で走り出す日常。どんなことも動き出さなくては始まらないのです。

「スクールアイドル部です。あなたもあなたも輝ける、スクールアイドル部です」

勧誘から始めた千歌と幼馴染で手伝いをしている渡辺曜。まったく成果はありません。

さらに、生徒会長の黒沢ダイヤに部活の申請もしないで勧誘とは何事ですかと怒られる、五人からでないと認めないといわれ、

この学校にスクールアイドルはふさわしくないと言われる始末。うまくいかないものです。

帰り道、四月の海に飛び込もうとしている制服を着た高校生がいた。

止めようとした千歌と高校生は海に落ちてしまう。

海辺でふたり、ぬれた髪をタオルで拭いている。

 

「海の音が聞きたかったの」

 

高校生は哀しい顔をしている。

東京から内浦にきていたピアノをしている高校生に、千歌は東京のスクールアイドルを知っているかを聞く。

高校生はピアノばっかりしていたから知らない。

千歌は高校生にスクールアイドルの動画をみせて、どうかと嬉しそうに聞く。

「どうって。普通、あーいえ悪い意味じゃなくてアイドルっていうからもっと芸能人みたいな感じかとおもって」

 

「だよね、だから衝撃だったんだよ」

 

千歌は海を前に歩き出しながら

「あなたみたいにずっとピアノを頑張ってきたとか、大好きなことに夢中でのめりこんできたとか、

将来こんなふうになりたいって、夢があるとか」

 

足でぴちゃあぴちゃと音を立てながら海に入る。

「そんなのひとつもなくて」

(ひとつもない)、その言葉をどれほどの人が胸にいだいているだろうか。

 

「私ね、普通なの、私は普通星に生まれた普通星人、どんなに変身してもふつうなんだって、そんな風に思ってて、それでもなにかあるんじゃないかって思ってたんだけど気づけば高二になってた。」

静かに話していた千歌がおどけた声で身振りも大げさに

「まずい、このままじゃほんとうにこのままだぞ、普通星人を通り越して普通怪獣

チカッチになっちゃうーーて」

高校生の顔に向かって

「がおー」

すこし驚いた高校生に微笑む千歌は海に体をむけて、ピードカン、シュピピピ、シュピドーンなんていいながら

振り向いて高校生をみる。微笑む高校生をみて千歌も微笑み空を見る。

千歌は秋葉原でスクールアイドルμ's(ミューズ)の映像をみた感動を話し出す。

 

「みんな私と同じようなどこにでもいる普通の高校生なのにキラキラしてた、それで想ったの」

千歌の声ははっきりとしていた

 

「一生懸命練習して、みんなで心を一つにしてステージに立つとこんなにもかっこよくて、感動できて、素敵になれるんだって」気持ちが溢れたような声になっている。

 

「スクールアイドルってこんなにも、こんなにも、こんなにも、キラキラ輝けるんだって」

千歌の目は海をまっすぐにみている

 

「わたしも仲間と一緒に頑張ってみたい。この人たちが目指したところを、わたしも目指したい。わたしも輝きたいって」

高校生は優しい笑顔になっていた。

 

「ありがとう。なんか頑張れって言われた気がする。今の私に」

高校生は千歌に

「なれるといいわね。スクールアイドルに」

 

「うん、わたし高波千歌、あそこの丘の上にある浦の星女学院っていう高校の高校二年生」

 

「同い年ね。私は桜内梨子、高校は音ノ木坂学院高校〈※ミューズと同じ東京の高校〉」

 

 

千歌は出会ったばかりの梨子の悩みなんてわからない、誰でも親しくない人の事情はしらない。親しい人であっても気持ちはわからない時が大半だと思う。それでも、誰もが落ち込んでいる姿は感じ取れる。顔を見て、声を聴いて、会話をしながら感じている。相手の想いや立場を考えることは容易くても、知ることは難しい。だから顔、声と姿を見聞きする。会話は言葉の意味だけが伝わるのでなく、僕のあなたの姿を伝えながら交わしている。会話している相手が落ち込んでいたら、大丈夫と励ましたり、おどけて冗談をいったり、落ち込むなと叱咤するか、そうだよねと同調したり、こうしたらと助言を言ったり聞いたりする、或いは自分に言い聞かせる。誰もが経験している。千歌が梨子とした会話は僕たちの日常です。

ひとつもないわたしは、今スクールアイドルを頑張って始めようと思う。

伝える言葉はそれだけでも、その人の姿が頑張っている人であれば、梨子がいったように(がんばれ)って言われたように思うのです。

梨子が励まされたように、千歌自身の励ましでもあります。会話は相手に伝えるだけでなく自分にも伝えています。自分は今、こんな気持ちで動き出そうとしている。

日常会話は相手を知るためにしません。自分を知るためであり、また、相手の姿を感じるために交わすのです。会話の内容でなく、会話をする行動こそ大事なのです。

 

 

生徒会長の黒沢ダイヤからスクールアイドル部を認められなくてもあきらめない。

バス停で千歌は幼馴染の渡辺曜に

「あきらめちゃ、だめなんだよ、あの人たち(※ミューズ)も言ってた。その日は絶対くるって」

 

もう一度、申請書を出すとやる気に満ちた姿に曜は。

「本気なんだね」

嬉しそうな顔で千歌から不意をついて申請書を取り上げた。背中合わせになる二人。

 

「わたしね、小学校の頃からずっと思ってたんだ。千歌ちゃんと一緒に夢中でなにかやりたいなーって。

だから水泳部と掛け持ちだけど、」

渡辺曜と書いた申請書を両手を突き出して見せる

 

「はい」そう言って千歌に申請書を見せた曜の顔は、照れくさそうで、嬉しくもある笑顔であった。

 

 

申請書を出しに来た千歌と曜に、生徒会長のダイヤは一人が二人になっただけだと

あきれられる、食い下がらない千歌に

「やるにしても曲はつくれるんですの。ラブライブに出場するにはオリジナルの曲でなくてはいけない。スクールアイドルを始めるときに最初に難関なるポイントですわ。東京の高校なら、いざ知らず。うちのような高校なら、そんな生徒は」

 

静岡県沼津市の街から離れた田舎の高校に作曲できる生徒はいない。千歌と曜はどうしたらよいかと考えている。

 

そんなとき東京から転校生がやってくる。

 

名前は桜内梨子

 

千歌は目を輝かせて椅子から腰をあげた

「奇跡だよ」

千歌は梨子をスクールアイドルに誘う。

梨子の返事は

「ごめんなさい」

頭を深く下げる梨子。奇跡ではなかったのです。