長崎原爆に被爆し、長崎大原爆後障害医療研究施設(原研、長崎市)で原爆放射線が人体に及ぼす影響を調べてきた2人の教授が、3月末で定年を迎える。これで原爆を体験した研究者は原研からいなくなる。2人は「地道な研究が放射線障害の全容をいつかきっと解き明かしてほしい」と後進に希望を託し、17日の最終講義に臨む。
2人は血液内科学の朝長万左男教授(65)と病理学の関根一郎教授(65)。
朝長教授は爆心地から2.7キロの自宅で被爆。高校生のとき、同世代に白血病が多発している報道に触れ「苦しむ人を救いたい」と同大医学部に進み、一貫して白血病を研究テーマにしている。
関根教授は原爆投下の3日後、家族を捜していた母親に背負われて爆心地近くに入り「入市被爆」。医学部卒業後、同大熱帯医学研究所を経て、被爆とがん発症の関係の検証に取り組んできた。
2人の40年に及ぶ研究は、被爆者の健康障害が一生涯続く現実と直面する作業でもあった。
朝長教授の研究によって、時間の経過につれて沈静化すると考えられていた白血病の発症リスクが、被爆者の高齢化に伴って高まる恐れがあることが判明。関根教授は、近距離で被爆した人ほど複数の臓器にがんが発生する「多重がん」の発症が多いことを示すデータを積み重ねてきた。
「『原爆が体の中で生きている』という被爆者の言葉を実感してきた。これからは、その仕組みを解明する時代」。朝長教授はこう指摘する。
関根教授の研究室は、現在の医療で解明できていない遺伝子やタンパク質レベルの研究に向け、がんなどの手術を受ける被爆者の生体資料の収集に着手している。
関根教授は「(原研を)去る寂しさはない。むしろ後輩がどのように研究を発展させてくれるかという期待でいっぱい」と語る。ともに退職後の再就職などは未定だが、「何らかの形で放射線障害の研究に携わりたい」と意欲を燃やしている。
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