中島みゆきの名曲『ファイト!』は、彼女がDJを担当していた深夜ラジオ「オールナイトニッポン」に、中学を卒業してすぐに働き始めた17歳の女の子のリクエストハガキがもとになっていることは、よく知られている。

 『ファイト!』が世に出たのは、1983年3月にリリースされた中島みゆきのオリジナルアルバム「予感」の中の一曲だった。しかし、発表当時は注目されることはなかった。むしろ、登場人物が多すぎる、と批判する声もあった。

 アルバム初収録から11年後の1994年5月、両面シングルとして『空と君のあいだに/ファイト!』がリリースされた。

 『空と君のあいだに』は、安達祐実(当時・子役)が主演し、「同情するなら金をくれ!」というセリフがブームとなった日本テレビ系列のドラマ「家なき子」の主題歌だった。また、同時期に住友生命の「ウィニングライフ」のCMに『ファイト!』が起用されことにより、多くの人が知ることとなり、今では中島みゆきの代表曲の一つとなり、多くのミュージシャンがカバーしている。

 

 1995年は、日本にとって特異な年であった。1月17日早朝に、「阪神・淡路大震災」が発生しており、またオウム真理教団によるサリン事件などが連日のようにマスコミをにぎわした年であった。

 この年の2月16日~4月20日にかけて、中島みゆきは全国ツアー(全27公演)を行っている。このツアーでは全21曲を歌っているが、アンコールの最後に『ファイト!』を歌っている。

 全国ツアーの最後は、震源地に近い大阪城ホールで4月19日、20日に2公演が行われている。

 ユーチューブに4月20日の公演で、『ファイト!』を歌う中島みゆきの音声がアップされている。

 アンコールの2曲を歌い終わった後、一端、舞台袖に戻った中島みゆきは、観客の「アンコール」の声に押され、再びステージに戻り、静かに語り始めた。

 

 「新聞やテレビでは、毎日、大きなニュースが知らされています。

 大きな地震が起こりました。

 恐ろしい事件も起きています。

 私たちが気づかなかった色んなことを教えるために、犠牲になった人々に、心からご冥福を祈りたいと思います・・・。

 夢は叶った方がいいです。

 でも、叶わない夢もあります。

 どうしょうもない、形を変えてでもしない限り、どうにもならない夢というものがあります。

 だから、どんなに姿形を変えながらでも、いつかきっと、あなたの夢が叶いますように…。」

 

 そう語り終えると、ピアノの伴奏で『ファイト!』を歌い始めた。

 しかし、歌い続けているうちに、感情をむき出しにし、肉体の限界まで振り絞ったような歌声と変っていった。

 曲が終ると、すすり泣く観客とスタンディングオベーションの拍手の中で、幕が閉じられた。

 

 2024年、中島みゆきは「歌会VOL.1」というコンサートを1月19日~5月31日まで、全16公演を行うことになっている。(東京国際フォーラム、大阪フェスティバルの2会場)

 おそらく、今回のコンサートで歌う曲は決まっているだろうし、本番に向けてリハーサルを重ねていることと思う。

 

 2024年元旦の午後4時10分、石川県能登半島を震源とする大きな地震が発生した。

 震源地から少し離れた私の家も、これまでに経験したことのない激しい揺れに襲われた。幸いにも自宅は目立った損傷はなかったが、一部の家具が倒れた。

 震源地に近い輪島市や珠洲市などでは、日ごとにその被害の甚大さが明らかになり、多くの被災者が救助、支援の手を待ち続けている。

 そして1月2日の夕方、羽田空港での日航機と海上保安庁の双発機との衝突事故。

 年始早々、大地震、そして衝撃的な事故。

 2024年という年が、どんな一年になるのだろうかと不安が募る。

 こんな先行きの見えない時代にこそ、中島みゆきの『ファイト!』を聴きたい。

 そして、1月19日から始まるコンサートで『ファイト!』を歌ってほしい、と願うのは私だけだろうか。