このアルバムは2020年1月から6月にかけて行われる予定だった、全国ツアーのライブアルバムで、2枚のCDとスタジオでのツアースタッフとの顔合わせから、コンサートの様子を約50分にまとめたDVD1枚から構成された最新ライブアルバムである。

 バンドや弦楽器、コーラスメンバーなどには若干の入替えはあるものの、顔馴染みのメンバーが集められた。音楽プロデューサーは、中島みゆきが「師匠」と呼んでいる瀬尾一三。中島ファミリーが集合している。ただ残念なのは長い間、中島みゆきのコンサートや「夜会」にバンマス(キーボード・シンセサイザー)を務めた小林信吾氏(ガンのため2020年10月4日没。享年62歳)がこのアルバムが発売された時には、故人となってしまった。小林にとって、「中島みゆき 2020ラストツアー『結果オーライ』」が最後のコンサートツアーとなった。

2020年1月13日から始まった全国ツアーのタイトルが「2020年ラストツアー・『結果オーライ』」と何とも意味深なこともあり、これが中島みゆきの最後のコンサートになるのでは、という不安があった。だからチケットを購入しようとしたのだが、またしても抽選という高い壁に拒まれた。

 DVDにはツアースタッフの初顔合わせから始まり、各地のコンサートの様子が紹介されている。

 スタジオでのスタッフの初顔合わせの冒頭、中島みゆきは

 

 「中島みゆき2020ラストツアー『結果オーライ』とタイトルをつけましたが、方々で『中島引退?』、と誤解されていますが、ラストツアーであって、ラストコンサートではございません。

 ツアー形式でドラックを連ねて、あっちから隅々までというのはこれがラストでございます、というだけでつまり単発ならば、あっちもこっちも行くという、騙しのようなタイトルでございます。ほほほ……」、とのみゆき節。

 

 中島みゆきが引退するわけではないと知り、胸を撫でおろした。ハードルは高いが(チケット入手困難)ではあるが、また中島みゆきの生の歌声を聴くことができるかもしれない。

 中島みゆきの熱烈なファンからは罵声を浴びるかもしれないが、スタジオリハーサルでの中島みゆきは、どう見ても「近所のオバちゃん」としか思えないのである。

 冗談あり、笑いありの和気あいあい雰囲気の中で、音作りが進められていく。中島みゆきのラジオ番組を聴いたことのある人なら想像できると思うが、何とも明るいキャラである。

 一見、近所のオバちゃんがいざステージに立つと、「歌姫・中島みゆき」へと変貌する。これも中島みゆきの魅力の一つだと私は思っている。

 

 長いコンサートツアーでは、アクシデントはつきものである。コーラスの杉本和世が足の甲を骨折するというアクシデントもそのひとつ。彼女は、怪我を抱えながらツアーを続けた。

 そして最大のアクシデントは、新型コロナウイルス蔓延によるコンサートツアーの中止だった。

 コンサートツアーは、2020年1月13日から6月5日まで行われる予定だったが、2月26日の大坂公演が最後となり、それ以降のコンサートはすべて中止となった。それだけに、このライブアルバムを心待ちにしていた人も多かったことであろう。

 

 今回のコンサートでは、

・「齢寿天任せ」    (2010年1月リリース)

・「離郷の歌」    (2019年4月リリース)

・「慕情」    (2017年4月リリース)

・「人生の素人」     (2017年8月リリース)

 

 の4曲がコンサート初披露されている。その他には、デビュー曲の「アザミ嬢のララバイ」「糸」「宙船」「麦の唄」「永遠の嘘をついてくれ」「誕生」など全21曲が収録されている。

 

 中島みゆきとって、故・川上源一(2002年・永眠)は大恩人のひとりである。

 現ヤマハ(株)の「中興の祖「」と呼ばれ、音楽や楽器演奏を身近にするため「ヤマハ音楽教室」を全国展開したほか、「ヤマハポピュラーソングコンテスト(略称・ポプコン)」や「世界歌謡祭」を開催して、1970~80年代の日本音楽界に大きな功績を残している。そして、中島みゆきは「ポプコン」、「世界歌謡祭」で「時代」を歌い、いずれもグランプリに輝いている。

 川上源一はまだアマチュアだった中島みゆきを自宅に招き、「あなたはすごい詞を書く。将来、詞で勝負するようなアーティストに育ってほしい」と語ったとされる。

 

 「ポプコン・地方大会」での中島みゆきの参加曲は、グランプリを受賞した「時代」ではなかった。本選出場が決まってから、急遽「時代」に変更しグランプリに輝いたのである。

 川上源一は2020年に亡くなったが、その葬儀の際、中島みゆきは「時代」を献歌している。そして、川上源一亡き後も、中島みゆきのCDやDVDには「DAD・川上源一」がクレジットされている。

 勉強不足で申し訳ないが、「DAD」はお父さん、あるいは父親と訳していいのだろうか?

 

 今回のアルバムから、音楽プロデュサーとして、またキーボード奏者兼バンドリーダーとして、長くコンサートや夜会に携わっていた小林信吾が2020年10月に亡くなった。

 今回のCDには、「In Memory Of 小林信吾」とクレジットされている。

 今後発売されるであろう中島みゆきのアルバムには、川上源一とともに小林信吾の名が記載されることになるだろう。