何時もの散歩道・・・竹林の端に真っ白い花を沢山つけた野茨(ノイバラ=野薔薇)を見つけた。

 観賞用の薔薇の台木としても用いられる木だが、万葉集にも登場し、こんな歌が残されている。

 

ノバラ

 

 

   美知乃倍乃 宇万良能宇礼尒 波保麻米乃 可良麻流伎美乎 波可礼加由加牟

          天羽郡上丁 丈部鳥  巻20-4352

 

野薔薇

 

    道の邊の荊の末に這ほ豆のからまる君を別れか行かむ

                          丈部鳥  巻20-4352

 

 

   みちのべの うまらのうれに はうまめの からまるきみを はかれかゆかん

 

  いよいよ出立する朝、道端の茨の枝に這いからまっている豆の蔓のように、私にまつわりついて離れまいとする君(妻)と別れて行かねばならない。

 

 ここ天羽郡(千葉県君津市の南部一帯)から遠い遠い九州の大宰府へ防人として出立する朝、人目もはばからず夫にしがみついて別れを辛がる妻。その切ない心持を忘れることが出来ずに詠んだ歌。

 

 ※ 宇万良

  「うまら」は野薔薇・野茨の古名

 

茨の花

 

 

 

 

 

※ 防人の歌

 万葉集には防人やその近親者が詠んだ歌が、合計で98首収められている。この98首は、巻十四に5首、巻二十に93首が収められ、この93首のうち84首は天平勝宝7(755)年のものである。

 この84首は駿河・遠江など東国10国の防人を引き連れてきた防人部領使から、防人を掌握する兵部少輔であった大伴家持に提出されたものである。「万葉集」の編集に重要な役割を果たした大伴家持は、提出された166首から拙劣なものを除いた84首を「万葉集」に収めた。

 彼が身をもって防人の事務を掌ったことが、思いもかけぬ幸運を日本文化史にもたらすことになったと言える。

 

 

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