先日髪を切りに美容院へ行った。

 

上京してから6年くらい同じ美容師さんに切ってもらっているが、こんなご時世だし電車に乗るのも少し気が引けるので歩いて行ける距離の美容院へ行くことにした。

 

毛先2センチくらい切ってくださいと要望を伝え、いい歳こいてまだ人見知りが残っている僕は目をそっと瞑りスリープモードで髪を切ってもらっていた。

 

そしてシャンプーをするからとシャンプー台のあるほうへ誘われた。

 

「段差あるのでお気をつけください。」

 

僕はここに来るまでも数多の段差を乗り越えてきたし、これから先も、これから何十年も数多の段差を乗り越えるだろうしこれくらいの段差なんてへっちゃらだよ。

もちろんマニュアルだとは思うけど気使って言わなくても大丈夫だよと思いながら「はい。」と答えた。

 

ふと思った。

今まで地元愛知の美容院や東京でも何軒か美容院へ行ったけどシャンプーする所絶対段差あるよなぁ。

 

美容師という職業はとても大変だと思う。

何センチ何ミリ単位の世界の繊細な仕事だし、店を閉めた後でもみんな練習してから帰宅するので帰りが深夜になったり、シャンプーのしすぎで手が荒れたりとか一見華やかだけど結構な苦労があると思う。

 

小さい頃の夢は美容師さん。卒業文集にも書いた「将来の夢は自分のお店を持つことです。」

夢を見て入学した美容専門学校。周りの友達にも恵まれて共に切磋琢磨した。そんなみんなとは卒業して離れ離れになってしまったけどこれでウチも晴れて一人前の美容師。っていってもアシスタントだけど。当然カットなんてやらせてもらえるわけもなく、させてもらえるのはせいぜいシャンプーくらい。シャンプーのしすぎで指先も荒れちゃって周りには「お前の指かっぱえびせんみてぇだな。」なんていじられる始末。閉店後はマネキン相手にカットの練習。家に帰って食べる晩ご飯はコンビニで買った春雨スープ。何気なく見るSNSには専門時代の友達の投稿。「立派な赤ちゃんが生まれてきてくれました☆」今じゃあの子も美容師辞めてお母さんかぁ。とりあえず押すいいねボタン。日付まわった時計を見て明日も早いしシャワー浴びないとと重い腰をあげる。「痛っ。」荒れたかっぱえびせんに水が滲みる。溢れ出るように涙が出てきた。指先の痛みだけではない。思い描いた理想とは程遠い現実。移り変わりゆく周りの環境。一緒に頑張ってたあの時間はうそなの?払い続けなければいけない奨学金。明日のために早く寝なければと髪も乾かさず布団に入る。アラームに起こされ急いで着替えて出勤。今日も当然カットなんてさせてもらえない。「シャンプーお願いします。」スタイリストの呼びかけに反応し、お客様をシャンプー台へご案内。「段差お気をつけください。」ウチこんなこと言いたくて美容師になったんじゃない。てか誰だよこんな所に段差作った奴。いる?これ。何のための段差なん?てか「段差お気をつけてください。」って言わなきゃいけないマニュアルって何?親切とお節介は全然違うからな。

 

そんな美容師さんの負担を少しでも減らしたい。

故に美容院の段差を無くしたいと思うのだ。