西海正隆と玲子は、楠本正隆の霊が現れた瞬間に息を飲んだ。霊の存在は現実と非現実の境界を曖昧にし、彼らの心を揺さぶった。楠本正隆の霊はゆっくりと彼らに近づき、その姿がよりはっきりと見えるようになった。彼の目には深い悲しみと未練が宿っていた。
「ここに来てくれてありがとう。しかし、私はまだこの世に囚われている…」霊は低く震える声で語りかけた。
「どうしてここに?」正隆は恐る恐る尋ねた。
「私はこの場所で、ある封印を守っていた。しかし、私の死後、その封印が弱まってしまった。強力な悪霊が再び目覚めようとしているのだ。」楠本正隆の霊は続けた。「その封印を強化し、悪霊を再び封じ込めるためには、特定の儀式が必要だ。しかし、その方法は長い間忘れ去られてしまった。」
玲子がすかさず質問した。「その儀式について、何か手がかりはありますか?」
霊は静かに頷き、「古い文献にその方法が記されている。その文献は、この寺院のどこかに隠されているはずだ。探し出し、封印を強化する儀式を行うのだ。」と答えた。
正隆と玲子は霊の言葉に従い、寺院の中を徹底的に調べることに決めた。彼らは本堂や廃墟となった庫裏、古びた蔵の中を探し回った。時間が経つにつれ、彼らの焦りは募ったが、ついに蔵の奥深くで古い木箱を見つけた。木箱を開けると、中には埃をかぶった古文書が収められていた。
「これだ…」正隆は古文書を慎重に取り出し、その内容を読み始めた。文書には、封印の儀式について詳細に記されていた。必要な道具や呪文、そして儀式を行うべき特定の日時と場所が示されていた。
「この儀式を行うためには、満月の夜に準備を整えなければならない。それまでに必要な道具を集め、儀式の手順を完全に理解しなければならない。」玲子は文書を見ながら言った。
正隆は決意を新たにし、「私たちはやらなければならない。楠本正隆の遺志を継ぎ、この封印を強化しなければ。」と答えた。