幻想とは霧の中に始まった。

他者からの幻想はあっという間に消えるが、自身の妄想は希望を含んでいるから、なかなか消えない。

江戸長久は煩悩の塊だったが、僧侶としての修行を積んで歩んでいる。

時間が過ぎて、大崎城は和絵と共に消えていた。

何か影がおかしい。

城の形が、薄らいでいた。

霧は晴れるのではなく、どんどん濃くなってゆく。

夜が訪れるのである。

一夜明ければ、この道は普通の農道に変化するに相違ない。

もともと、人間の頭の中に住むのが妖怪で、半妖怪は現実と混同して出て来た。

それにしても心の弱さからくるものだが、年老いて空耳が聞こえて惑わされることも多かった。

三人ハイハイもそうであるが、これといったきちんとした思想が社会に受け入れられずに狂ったものだ。

人間社会と融合できずに妖怪となってさまよう輩が多くいた。

まるで中国のキョンシー妖怪のように動けるのだが、頭脳に正義が欠落しているために社会に適応できない。

この霧が晴れたら、そういうちゃちな魂が抜けていくと江戸長久は信じていた。

晴れた心は爽快さを呼ぶに違いないと期待していた。