ある年の盆。
門前の豆腐屋が
資金難から倒産寸前に陥っていた。
宗旦狐は蓮の葉をたくさん集めて来て、
それを売って金に換えて大豆を買うよう勧めた。
豆腐屋はそのお陰で店を建て直すことができた。
お礼をしようと考えた豆腐屋は、
狐の大好物である鼠の天婦羅を作って
宗旦狐に贈った。
しかし宗旦狐は、
それを食べると神通力が失われる
といって遠慮した。
とはいうものの目は大好物に釘付けで、
つい我慢できずにそれを食べてしまった。
途端に宗旦狐はもとの狐の姿に戻り、
それを見た近所の犬たちが激しく吼え始めた。
狐は咄嗟に藪の中に逃げ込んだが、
慌てたために井戸に落ち、命を落としてしまった
(別説では猟師に鉄砲で撃たれた、または自ら死期を悟って別れの茶会を開いたともいう)〟
この逃げ込んだ藪に実は
たぬきの方のご先祖さまがいたんです。
化ける練習中の。
よりによって狐に化たたぬきが。
で、介抱している間に…」
たぬきの母さんは目配せした。
「神通力は消えたんじゃなかったの?」
「吐いたらしいです。で、死んではいなくて
稲荷山のキツネの助けを得て
その神通力で
あつこさんの家の近くの公園の奥に
ちょっと訳ありというか
違う力を備えた動物の住める
森を作ったようですよ」
「あ、あなたたちと初めて会ったあの公園ね!」
宗旦狐。
ただの昔話だと思っていたのだけれど
なんと、こんな風に繋がっていたのだった。
「でも子孫の中にはなかなかお茶好きなものが
現れなくて。器作りに走ったり、和菓子だったり
ひたすら化ける練習しているだけだったり。
やっとわたしなのだそうです」
「そうだったんだ」
感心した。
「逆に私はなんでお茶が好きなんだろう⁇と
悩んだりもしたから、分かって安心しました。
だからもっと精進しようと思います」
「私もがんばる」
そして
たぬきの母さんからお茶の葉のお土産をもらい
駅前で別れた。
たぬきの母さんの思いに触れて
あつこは思わず言ってしまったけれど
さて、何をがんばるんだろうか。
〜たぬきの茶ムリエ
おしまい〜