「で、どういうことなのかなぁ?」


友達に、知らない間に

彼氏が出来ていたのを知った時の

気分に似ていた。

駅近くの甘党の店で

あつこは高木さんと向かい合っていた。

でも、口調はたぬきの母さんに話している。

「いやぁ、話せば長いんですけどねー」

「時間はあるからちゃんと説明して」

「あつこさん、キャラ、変わってませんか?」

変えた気はないが

狐ならぬタヌキにつままれて

シラフなのに酔っているみたいだった。

「あつこさん、宗旦狐のお話、知ってますか?」

「なんか、聞いたことある。

千宗旦に化けて茶会を催していた

相国寺の狐でしょ」

「そう、それ。

ウィキペディアにもあるんですよね。

〝あるときに相国寺で千宗旦の茶会が開かれた。

宗旦の見事な点前は、

出席した茶人たちはもちろんのこと、

普段からそれを見慣れている弟子たちですら

見とれるほどだった。

ところが宗旦がその場を去った後、

また宗旦が現れ、

遅刻して来たことを詫びた。

そのようなことが何度かあり、

弟子たちは宗旦に偽者がいると考え始めた。

後日、茶室に宗旦が現れたときを見計らい、

弟子たちは

宗旦本人が自宅にいることを確かめた上で

偽宗旦を問い詰めた。

すると

偽宗旦は素直に自分が偽者であることを明かし、

自分は寺の藪に住む古狐であり、

ずっと宗旦の点前に憧れていたので、

いつか自分もそのような点前をしてみたかった、

もう二度と悪さをしないと詫び、

狐の姿となって逃げ去った。

弟子たちは宗旦狐の腕前に感心し、

狐を追うことはなかった〟」


「で?」

「で…と言われても」

言葉を発する代わりに

高木さんはあんみつの白玉を口に入れた。


〜つづく〜