よもぎの頃シリーズ
〜梅の実の香る頃〜


一部にファンのいるたぬきのお母さん、出てきます☺️
以前のお話、気になる方はこちらからお読み下さいませ。

では、
よもぎの頃〜梅の実の香る頃〜
どうぞ。

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「雨が降りそうだ。大変だ。大変だ」
「うわっ。降る前に帰らなきゃ」

JRの線路沿いの中と外で、慌てているもの達の声が聞こえる。

1人と1匹。お互いに耳に入った相手の声に聞き覚えがあり立ち止まった。

先に声をかけたのはあつこの方だった。

「たぬきのお母さん、何してるの?」
「あー、あつこさん。こんにちは。何って、雨に当たる前に梅の実を取ってしまおうと思っているんですよ」
「なんで?」
「梅シロップと梅サワーを作るんです」

梅サワーと聞いて反射的にあつこは唾を飲み込んだ。

「たぬきのお母さんはお茶だけじゃないのね」
「ハイ。ドリンク全般を担当しています」
たぬきのお母さんは〝ドリンク全般〟に力を入れて笑った。

「じゃあ、手伝ってあげるわ」
「でも雨が…」

言い淀むたぬきのお母さんへの答え代わりに、あつこは花柄のトートバッグから赤い折り畳み傘をちらっと見せた。

「さぁ、どうしたらいいの?」
「とりあえず荷物を置いて下さい」

桜の木の側にある、ペパーミントグリーンのペンキの剥げかけた朽ちた木のベンチにトートバッグを置くと、紐の付いた籠バッグを渡された。

こっちこっちと手招きされた梅の木には、かわいらしいサイズの梯子がかかっていた。

「私では天辺までは届かなくて…あつこさんなら取れますよね?」

それほど高い木では無かったけれど、たぬきのお母さんには難しいかもしれなかった。足をかけるのに丁度良い枝もあり、あつこは直接木に登って梅の実を採った。