去年のクリスマス。
僕を一つの悲劇が襲った。

いつもより暖かいクリスマスです、
と浅黄色のブラウスを着たお天気お姉さんがテレビ画面の向こうで微笑んでいる。

僕の心は暖かいを通り越してヒートアップしていた。

なんてったって今日は大好きなアイドルグループのライブの生中継がある。

この為とは言わなかったけれど、上手くアルバイトのシフトも外してもらえた。
店長、感謝です!

気楽な大学生の兄貴はサークルの旅行のはず。
いっちょかみで小学生並みに煩い親父は忘年会だ。
母は、まぁ、居ても居なくてもいいか。

Amazonでサイリウムも買った。

午後7時。
いよいよ始まった。
オープニング曲はいつもの曲。
でもフォーメーションがテレビの歌番組出演時とは違う。
そんな違いが分かるのも当然だが悦に入る。

ノリノリで、母が嫁入りに持って来た20年物の、多少へたった羊革らしいソファの上で跳ねていると、予定が変更になった父親がリビングのドアを開いた。

「あっ、ママやん♡」

えっ⁈
画面には僕の推しメンが映っていた。

そこへ帰宅の気配を察した母も二階から降りてきた。

「どうしたん?」
「今な~、昔のママに良く似た女の子が映っててん」
「そうなん?どれどれ」

母は僕の隣に腰掛けて画面を見つめている。

「あっ、この子?」
「そうそう」

母の指が正確に捉えたのは紛れもなく僕の推しメン。

この母が?
ボサボサの頭で毎朝ダルそうにお弁当を作り、口癖は
〝めんどくさ~〟で、
ライザップに放り込んでやろうかと思うこの体形のこの母がか⁈

「マザコンか⁈」

笑いを噛み殺しても身体が震えているのがわかる兄貴の発した言葉が
落ち込む僕に追い打ちをかける。
「り、りょこう違うん?」
「夜行バス使うし今から」

こんなことツイッターにも書けへん。



あれから年も変わった。
おまけに今日からドーナツキャンペーンだというのに。
推しメンを変えるべきか変えざるべきか…
部屋に貼ったポスターを眺めながら僕はまだ決められないでいる。