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リーダーとして

 
肩書きを訊かれると困ります。「なんでもいいです」と答えると、なんかスカしているみたいだし。
 
自分の興味の言いなりになって挑戦を続けているうちに、気がつけば、職業の壁を越えて本当にたくさんのプロジェクトを抱えていました。
 
加えて、会員数7万人を超える『西野亮廣エンタメ研究所』という有料のオンラインサロン(月額980円)の運営もやらせてもらっていて、おかげで毎日たくさんの「決断」をしています。
 
海に最初に飛び込む勇敢な「ファーストペンギン」は、実は後ろからグイグイ迫ってくる他のペンギン達に押し出される形で海に落っこちているそうです。
 
「たまたま一番前に並んでいたら、皆のせいでファーストペンギンになっちゃった」というわけ(笑)。
 
「リーダー」の成り立ちもそれとよく似ています。
 
リーダーは、もともと「チームを束ねる力」を兼ね備えているわけではありません。
 
チームを束ねる立場になってから、必要に迫られて「チームを束ねる力」を手に入れます。
 
僕は、まだその途中。毎日勉強させてもらっています。
 
そんな中、僕がリーダーであるために心掛けていることは次の二つ。
 
・全員の意見に耳を傾けて、最後は独裁する。
・正解を選ぶのではなく、選んだ道を正解にする。
 
リーダーがやってはいけない、もっとも無責任な仕事は「多数決」です。
 
「多数決」で決めてしまえば、その判断が悪い方向に転んだとしても、リーダーには「決めたのはキミ達自身じゃないか」という手札が残ります。
 
責任を背負わないリーダーなど要るものか。
 
全員が反対しようとも、結果的に全員を守れるのであれば、反対意見を押し通すのがリーダーの仕事です。
 
そして、もう一つ。
 
「誰もやったことがない挑戦」には正解がありません。
 
右に進もうが、左に進もうが、成功も失敗もあります。
 
その問題に確かな正解があるのであれば、皆で正解を選べばいいだけの話なので、リーダーなど必要ありません。
 
リーダーが必要となるシーンは、「正解のない問題」と対峙した時です。
 
その時、迷ったところで正解などないので、リーダーは「選んだ道を正解にする」しかありません。
 
選んだ道を正解にする為の施策を全て打つのがリーダーの仕事です。
 
映画『えんとつ町のプペル』では、原作・脚本・エンディング主題歌の作詞作曲の他に、「製作総指揮」というポジションで頑張っています。
 
いわゆるリーダーです。
 
クリエイティブから広告まわりまで、全てを指揮するのが、映画『えんとつ町のプペル』における僕のお仕事です。
 
作業量は結構多いです(笑)。
 
今回は、映画『えんとつ町のプペル』の製作総指揮に向けた覚悟について、お話したいと思います。
 
 

映画『えんとつ町のプペル』の製作総指揮って何をするの?

 
「製作総指揮」と言われても、一体何をやっているのかよく分からないですよね? ともすれば「名前貸し」のイメージすらあります。
 
大きな業界です。
 
もしかすると、中には「名前貸し」の(作品のアイコンとしての)製作総指揮もいらっしゃるのかもしれませんが、映画『えんとつ町のプペル』に関しては、先ほども申し上げた通り、原作・脚本・主題歌を担当させていただいております。
 
加えて、そもそも『えんとつ町のプペル』という物語は、夢を語れば笑われて、行動すれば日本中から叩かれた僕の経験が下地になっています。
 
余談ですが、劇中に、煙突掃除屋の少年「ルビッチ」が、ゴミ人間「プペル」に、「僕と友達になってください」と言うシーンがあるんですね。
 
友達の始め方としては下手すぎるじゃないですか?
 
でも、これ、実際にあった話なんです。
 
僕が日本中から叩かれて、まだまだ一人だった頃です。
 
夜、幻冬舎の舘野さんから「今、西野に会いたがっている男と呑んでいるんだよ」と連絡がありました。
 
「日本中から叩かれている男に会いたがっている男って、どんな人だろう?」と思い、飛んでいきました。
 
店に着くと、ラーメンズの小林賢太郎さんがいました。
 
彼は、「はじめまして」よりも先に、「僕と友達になってください」と言ったのです。
 
聞けば、日本中から叩かれながら一人で踏ん張っている僕を、陰ながらずっと応援してくださっていたそうです。
 
「ああ、この人も、僕と同じように一人になっちゃったことがあるんだな」と思いました。
 
だって、友達の始め方が、あまりにも下手すぎるじゃないですか(笑)
 
だけど、その下手さに小林さんの誠実さが表れていて、僕らの距離は、すぐに縮まりました。
 
そこから散々飲み明かして解散して、帰り道。
 
「近所で、芸人がオールナイトライブをやっている」という情報を聞きつけます。
 
どちらから連絡したのか忘れましたが、「さっきはありがとう。そんなことよりも、今から行っちゃう?」と話は盛り上がり、再合流。
 
ベロベロの状態でオールナイトライブに乗り込んで、挙句、ステージ上でブルーハーツの『リンダリンダ』を熱唱。絵に描いたような酔っ払いです。
 
その夜を、ルビッチとプペルの出会いのシーンに重ねています。
 
弱い者同士で励まし合い、慰め合ったあの夜が、とても良かったんです。
 
脚本一つとってもこの調子です。
 
つまり、『えんとつ町のプペル』はクリエイティブの根幹となる部分の答えを僕が持っているので、「あとは、よろしく!」みたいなことはできません。
 
今日は今日で音楽スタッフさんと日がな一日「あ〜でもない」「こ〜でもない」と音楽制作の最終作業。
 
根性っス。
 
 

製作総指揮を背負う

 
絵本『えんとつ町のプペル』がヒットして、映画化の話が出始めた頃、テレビ東京の『ゴッドタン』に出させていただきました。
 
肛門まわりを重点的にイジられるサイコ番組です。
 
終始、肛門に指を突っ込まれたり、肛門に鼻に突っ込まれたりするのですが、何故このような恐怖映像を地上波で流せているのかは誰にも分かりません。
 
機会があれば、是非ご覧ください。
 
そんな肛門番組のセットチェンジの合間に、出演者の劇団ひとりさんと映画『えんとつ町のプペル』の話になりました。
 
「プペルの映画化、すごいね。西野はどの形でタッチするの」
 
「まだ決まっていないのですが、脚本を書くことに専念しようと思います」
 
劇団ひとりサンからの質問に対して、「餅は餅屋」と返す僕。
 
そこまでおかしな判断じゃないと思ったのですが、劇団ひとりサンは少し厳しい顔で言います。
 
「お前、絶対に後悔するぞ」
 
収録の帰り道、その言葉がずっとグルグルと頭の中を回ります。
 
デザインの「デ」の字も知らない社長がデザインした「誰も要らない商品」
 
エンターテイメントと集客のイロハを知らない地元議員が張り切って仕掛ける「絶対に面白くなさそうなイベント」
 
…これまで、「餅は餅屋」と割り切ることができない素人が起こしてきた事故現場を何度も何度も見てきたので、「一世一代の大勝負である映画『えんとつ町のプペル』でその事故を起こしてなるものか」と思っていました。
 
 
でも、よくよく考えてみればお笑い始めた時も僕は素人だったし、絵本を描き始めた時も素人でした。
 
その中で、もがき、勉強し、毎晩眠い目をこすって、「そんなやり方はダメだ」と同業者から叩かれて…それでも、結果を出してきました。
 
いつも始まりは素人だったんです。
 
「ヘタクソなことぐらい分かっている。それでも何とかする」という挑戦を繰り返し、その姿勢を応援していただき、ここまでやって来ました。
 
なのに、どうして映画になると「素人なのでここはプロに任せます」と僕は言っているのでしょうか?
 
そもそも『えんとつ町のプペル』を、お前以外に誰が書けるんだ。
 
お前の物語だろ。
 
大きな夢を語って、日本中から迫害されたお前の物語だろ。
 
それをお前が語らなくてどうするんだ。
 
自問自答を繰り返し、覚悟が決まります。
 
「ここで大人になって逃げてしまったら、僕は一生後悔する」
 
我慢たまらず、すぐに吉本興業と今回のアニメーションを制作してくださっているスタジオ4℃さんに連絡。
 
「僕に全部やらせてください」という話をさせていただきました。
 
映画『えんとつ町のプペル』の製作総指揮が僕に決まった瞬間です。
 
仕事は山積みです。
 
各セクションのクリエイターさんから信頼されることも僕の仕事です。
 
誰よりも映画『えんとつ町のプペル』と向き合って、徹底的に予習をして、どんな意地悪な質問がきても返せる体を作り込みます。
 
さらには、何度も飲みに行って想いを語り、たくさん頭を下げる。
 
クリエイティブ部分で納得がいかないことがあれば遠慮なく、言う。
 
ただし、言葉は選んで。それでも言いすぎてしまったら、キチンと謝る。
 
どれだけ意見が衝突しようとも、崩れない信頼関係を築いておく。
 
 
スタッフが眠った後は、アトリエに籠り、映画『えんとつ町のプペル』を一人でも多くの人に届ける作業に着手。
 
この連載も、その一つ。
 
朝までに二仕事ほど終わらせておいて、リーダーの覚悟を形として見せ、チームをまとめる。
 
2020年に入ってからは、眠れない日がずっと続いています。
 
映画『えんとつ町のプペル』は、もうとっくに、多くの方からの期待を背負っています。
 
100年に一度のウイルスに襲われて、世界中が涙した年の最後に、とびっきりの奇跡を待っている人がいます。
 
「あんまり無理をしないで」とも言われますが、ここで無理をしなかったら、どこで無理をするんだ。
 
あと少し。もう少しだけ頑張ります。
 
毎晩、震えています。
 
「お客さんが、映画館に来てくれなかったらどうしよう」と不安にならない夜はありません。
 
そして、その不安は、どれだけ努力しても消えることはありません。
 
「ずいぶんな場所に首を突っ込んじゃったなぁ」と思います。
 
だけど、あそこで「やります」と手挙げて良かったと思っています。
 
あそこで手を挙げなければ、劇団ひとりさんの言うとおり、僕は絶対に後悔していました。
 
手を挙げたことによって、期待と同じ量だけの恐怖や、どれだけやっても拭えない不安と引き換えに「納得のいく作品」を残すことができます。
 
それが全てです。
 
「僕が面白いと思っているのは、コレです」と胸を張って言えることが全て。
 
それができれば、あとは何も要りません。
 
あまり偉そうなことは言えませんが、もしもこの先、貴方に「手を挙げるチャンス」がやって来たならば、今回の話を思い出して欲しい。
 
現時点で自分が能力的に劣っていることを認めて、「その上でチーム全員の人生を巻き込んで結果を出せる」と言うのであれば、その時は勇気を振り絞って絶対に手を挙げてください。
 
そして、自分が選んだ道を正解にしてください。
 
終わることのない孤独と恐怖と絶望が副作用のように付いてきますが、生きのびていることを実感できて、悪くないですよ。
 
頑張って。
 
 
西野 亮廣『ゴミ人間 ~日本中から笑われた夢がある~』より抜粋
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