「 聞かなければ良かったわ。」

   「 此んな事ご存じかしら。アメリカ政府の調査では今度の戦争で死んだ日本人は300万人って言われてるのよ。マリーはもっと多くて被害者は500万人に達してると思ってるのよ。

            戦争の被害って其れだけでは無いのね。間接的に今でも被害に泣いてる人たちは多いのね。此れは日本に限った事では無くて、ハンセン病の被害者もお年寄りに成ってもまだ、生き恥を晒してるでしょうね。其の陰には珠樹のご両親の様に、法律の名の下で堕胎だけでは無くて、生まれて来た赤ちゃんの始末もしたと思わなければ為らないのよ。」

       判って遣って欲しいのよ。不当な戦争で敵兵を殺した兵隊も居たでしょうが、陰では怯えて隠れて居る子供たちも殺したのが沖縄戦争なのよ。


   「 珠樹と話し合った事は有りませんのよ。でも弥太郎さんは8年前から事実を知って今、父親に成ろうとしてますのね。人のホントって誰れにも判りませんでしょう。

            アメリカでは其れを今でも引き摺って、自殺する兵隊が多いって言われてるのよ。

       そうなのよ、まさか子供まで火炎放射器で殺すとは思わ無かったでしょうね。極く普通に医者としてライの患者の診療に携わったのでしょうが、まさか生まれて来る赤ちゃんを殺さねば為らないとは思わなかったでしょうね。

            小島の春を書いた女医さんは何をお考えかは知りませんが、珠樹のご両親がドンナお気持ちでお命を絶たれたのかは、生まれて来る娘さんには言えないでしょう。

       珠樹と弥太郎さんが私たちに求める物は其の事だと思わねば成りませんのよ。」

           何とも不思議な空気に成ったんですのよ。


   「 珠樹と話し合った事は有りませんのよ。人間って不思議に避ける様にする過去も抱えてますのね。弥太郎さんが此れをお話に成ったのは、生まれて来る赤ちゃんに珠樹の御父上が為さったことを重ねてるからなんでしょうね。

            今のタイミングで話したのは、恐らく事実を知った8年前から伏せて居た悲惨な過去なんでしょうね。

        だとしたら私たち二人に与えられた物は、取り敢えずは弥太郎さんの想いを頭の中にしまって、無事にお産を終わらせる事なんでしょうね。私たちの何万倍も社会を知り尽くして居る弥太郎さんなんですから、エンサンチャ病院の事務長に話を持って行ったのは、陰では手を遣り尽して居ると思うべきでしょうね。」

        言っちゃいましたのよ。此の方はバルセロナでお住まいだったのでしょうから、どうしても狭いバルセロナの判断から出られないでしょうね。

        弥太郎さんの想いは判りませんが、国際人としてのマリーに何かをお求めなのかは判りますのよ。別に気にしてもドウ仕様も無い問題なんですのね。取り敢えずは病院と珠樹の繋ぎに、付き添いさんが潤滑油に成れば位しか思い当たらないのですのよ。マリーって小さな存在ですが、かえって黒い肌が厳しい現実には向いて居るとも想いましたのよ。