「 たった5軒の置屋さんしか無い柳橋に何のプライドが有るのかしら。」
「 言って呉れるのね。じゃあお聞きしますけど、マリーのハーバードって何なのよ。アメチャンの大統領を取り上げても、ハーバード出のお人ってルーズベルトが最後なんでしょう。エール大に乗っ取られてる位、柳橋の芸者の端くれだって知ってますのよ。
芸者珠樹を内の置屋で預かって居たのは、勝さんのいじけたプライドがさせたんでしょう。軍艦奉行で西郷さんと渡り合ったって言うけど、他にお人が居なかっただけでしょう。
隅田川の川筋を抑えて居たのは小さくても柳橋だったのよ。隅田川沿いには浜町も芳町も新橋も有りますけど、柳橋は格が違うのよ。」
「 其れをプライドって言いたいのね。そうよ、子供にだってプライドは有るでしょう。
マリーはみなしごにされて、カソリックの孤児院に拾われたのよ。生意気にお澄まししてたから苛めは15まで続いたのよ。ローマ法王庁のお使者が来て凛と背筋を伸ばしてオベッカを使わなかったマリー一人が認められて、ハーバードに入れられたのよ。
ハーバードって得体が知れない大学なのよ。創立だって定かでは無いのよ。一説ではオックスフォードの地方の予備校だって言われてるのよ。伝統のハーバードスクールを卒業しないでストレートに大学に入ったのは、後にも先にもマリーだけなのよ。
好い事、此んな下らないお説教を並べたのは、チャンスって1回だけなのよ。カソリックの孤児院はローマ法王庁の寄付で成り立ってるのよ。10年に一度視察が入るのは教えられて、其の時だけはお着物も新しいし、いじめの傷も隠す様にされるのよ。
ドウ遣ったら視察の人に認められるのかを、死ぬ思いで考えたのよ。たった一つ背筋を伸ばしてお口をキリッと結んで白い歯を見せない様にしたのよ。15歳のニガーに出来るのは其れしか無いのですもの。
そうよ、ローマ法王庁に認めさせるのにはプライドなんか何の役にも立たないのよ。考え抜いて 凛と背筋を伸ばして笑顔を見せない だけしか無いのを実行したのよ。
プライドも柳橋も形が無い人間の心に忍び込む魔物なのでしょう。
好い事、根津中の夏休みに10人の15歳と会ってマリーの15歳を思い出したのよ。ケインズの金鉱跡で30人のアボリジニの奴隷にされたのよ。性の奴隷って言うだけヤボね。其の萎んだマリーの目の前に、ローマ法王庁のお使者と対峙したのと同じ歳の娘たちが居たのよ。キットマリーを睨んでた10人の娘たちと面と向かったのよ。
2年アボリジニの腐ったドロドロを子宮に受け続けたマリーを救って呉れたのは10人の15歳だったのよ。
日本を去らなければ為らない過去が有っても、此れからオーストラリアで独立して行かねば為らないのよ。マリーに出来ることは、男は必ず娘たちの昔を質すでしょうね。胸を張って見せられる根津を作りたいのよ。青春の18年を根津でドウ過ごしたのかをね。
そうよ、根津に求めるのはプライドなんだけど、目に見えない形よりも凛とした形が欲しいのよ。泥に塗れたマリーはバルセロナから応援するけど、同じ様に多くの男が通り過ぎて行った楠さんと五人の皆様だったら、背筋を伸ばした根津は作れると思ってますのよ。」
大演説しちゃったのよ。
芸者が何よ、アボリジニが100年昔の敵をマリー一人の子宮で晴らそうとしたのよ。其れが何よ。いじけるか凛と立ち直るかは独り立ちの覚悟を決めた女だから出来るのよ。
マリーを立ち直らせて呉れたのは10人の小娘たちなのよ。此れから先は10人の囲みが崩れて独り立ちして行くのね。マリーに出来るのは根津を娘たちが誇れる故郷にするだけなのよ。
形が無いプライドなんてオリンピックのゴールドメタルと同じなのよ。女が誇れるのは凛と伸ばした真っ直ぐな背筋なのよ。其れを作るのは五人の芸者衆と楠さんだけど、陰で支えるのはお金と時間なのよ。何年、何十年掛かるかも知れないけど、其れを支えるのはお金と時間なのよ。マリーが出来るのは其れしか無いのね。アボリジニの奴隷の生き残りとしてはね。