「 娘たち、此れからの事を楠さんには告げてたんでしょう。」
「 そうね、6年此の方お互いの立場はチャンと心得てたのよ。12歳で女衒に連れて来られた時も、チャンと大人顔向けの計画性は持ってたのよ。むしろ私が教わる事が多かったのね。」
「 待ってよ、マリーだって教えられる事が多かったのよ。功に呼ばれて来て直ぐ、カナダに連れて行ったでしょう。半年遊び捲くってた中でも、娘たちは自分たちの置かれて居る立場の全てを見据えてたのね。
売春は随分カマを掛けて聞き出そうとしたのに、有ったとも無かったともハグラカス巧みさには舌を巻いたのよ。
功との関係を聞いて置きたいと思ったのに、そっちに話が行くと見事にハグラカサレタんですもの。」
「 其れには彼女たちなりの想いが有るのよ。
大宮から逃げ出して初音町に連れて来たけど、ドウ仕様も無いから功を呼んだのよ。オーストラリアの治外法権を利用するのに、オーストラリアスクールの通勤バスを持って来るって出掛けたでしょう。だから昔馴染みの青森会の吉田さんに相談したのよ。
殆ど全部、吉田さんが青森会を使って市場で売春する様に作って呉れたのよ。7月から始まった2ヵ月の買春だったけど、東京農協が青森農協を救済する保証人を青森会に求めたのよ。」
「 其れは功に聞いてたわ。彼のお手柄の様に言うけど、青森会が有ったから名前だけの保障人を求めて来たのね。吉田さんが保証し無くて彼女たちが保証人に成ったのって、陰のいわくを聞いて置きたいのよ。」
「 あら、青森から出稼ぎに来ていた50人の男たちが、失業救済の240円の仕事に着かないで八百屋を始めたのには、何が有ったのかは聞かなくても判るでしょう。1950年には曲りなりにも全員お店を持ってたのよ。
殆ど吉田さんが苦労して手配したらしいのね。昭和25年って東京にはまだ敗戦の跡が燻ってた時なのよ。男のDVから逃げた楠が何をしたのかって、盗むか買春するしか無かったのよ。其れと同じで、青森から出稼ぎに来ていた荒くれ者たちが、ドウ遣って八百屋のお店を手に入れたのかは言わなくても判るでしょう。
楠の買春って言っても、上野は縄張りが決まってたでしょう。浅草から吾妻橋界隈は、吉原から流れて来たお女郎たちが縄張りを固めてたから、御徒町で遣るしか無かったのよ。其れも縄張りが決まってたから同郷の誼で吉田さんを頼って、神田市場周辺で稼ぐしか無かったのよ。」
「 判ってますって言いたいけど、あの時のマリーだって芝浦港の指揮官を2年後に除隊するのが決まってたのよ。功と蒲田にお家を借りて遊び捲くってた時だっのね。
功は18の坊やだったから、遊ぶには手ごろな男だったのね。其れに夢中だったから、まさか今見たいに為るとは思わなかったのよ。
ハーバードの教育を請けてたとは言え、
まるで世の中知らずの女だったのよ。」
「 私だって似た様な女でしたのよ。一時の気紛れで娘たちを女衒から逃がしたのね。連れては来た物の、働かせるって屋台しか無かったのよ。お酌するのには若すぎたでしょう。屋台のお仕事ってお酒とセックスなんですから、12歳の娘たちにはムリに決まってたのね。其れを全部吉田さんが助けて呉れたのよ。
10人の体を全部調べて、売春なんて出来ないからって、チョンガの親方たちをお股とおっぱいに挟んでの【 せんずり 】 を教えたのよ。
ロリコンも好いとこだったけど、良く2ヵ月持ったと思うのよ。」
「 其うだったのね。功は教えたと言ってたけど、全部吉田さんが手配したのね。それにしても僅か2ヶ月で230万円の預金を作ったってのが不思議なのよ。」
「 其れは全部言いっこ無しにしといてよ。2ヵ月の中には生理も有ったから、彼女たちは其れさえ上手く使ってたのね。市場の屋根裏部屋でカーテンが囲いに成ってただけでしょう。親方たちが万札で遣らせろって言うのが筒抜けなのよ。娘たちがお口とお尻だったらって躱してるのが聞こえるんですもの。
ですからドウ遣って稼いだのかは全部知ってるのよ。10人で相談して裏セックスで稼ぎ捲くったのね。其れは全部内緒なんですから、見様に拠っては売春よりも残酷だったと思うのよ。」
「 そうなのね。カナダに連れてった時は15に成ってたのね。其れも大人顔向けの15だったのよ。
幾ら賢いと言っても、まだ育ち盛りでしょう。マリーを外して10人で話し合ってたのね。
話が10人十色なんですけど、其れを皆んなで一つ方向に持って行くのね。其の巧みさは到底想像できなかったのよ。」
「 そうなのね。吉原遊郭の全ては知ってたのね。青森を出るのに其れを利用したのね。
警察に逃げ込むのを言って見たら、青森に戻されるに決まってるからって答えたのよ。
なまじの大人より遥かに世間を知ってたのね。其うかと言って青森会に便乗するのも悟り切ってたのね。オロオロする楠を尻目にして、吉田さんの提案にすかさず乗り換えたんですもの。
其の日の稼ぎを預かるのに20枚の万札を出した娘も居たのよ。シャブラセタって言うけど、其の隙に盗んだに決まってるでしょう。
吉田さんの睨みが利いてたから、ロリコンに溺れた弱みを上手く使ってトラブルには成らなかったのよ。」
「 判るわ、世の中全て同じ様に出来てるのね。買春だけなら楠さんは隠さないでしょう。12歳の娘たちがドウ生きたのかは、モヤの中に沈めるより無いのね。同じ市場の買春でも、楠さんは仲間では無かったのね。」
「 いーえ、仲間には違いないのよ。屋根裏部屋に並んで同じ事をしてたんですもの。生理で嫌がる親方を受ける立場を続けてたのよ。時には二人・三人と相手にし無ければ成らない時も有ったのよ。娘たちは全部知ってるから、ある意味では仲間以上だったのね。
でもアノ子たちが賢いのは、10人の考えを纏める巧みさを持ってたのね。先ず青森を捨てるのから始まって、東京農協の保証人で譲らなかったのは、新しい戸籍を作る事だったのよ。
東京農協の契約金の申し出もキッパリ断って、根津の寮と新しい戸籍を手に入れたのよ。お金を作るのに売春を考えるよりも盗むのを仕様としてたのよ。あの子たちの力では盗むのしか思わなかったのね。ですから東京農協のお情けを受け入れようとはし無かったのよ。陰では吉田さんの提案が有ったと思うのよ。お金は市場で稼がせるからってね。あの子たちの買春って、見様に拠っては盗みを誤魔化す体の提供だったのよ。
9月1日の伊勢湾台風で全部白紙に成ったけど、抜け出すタイミングも計算してた見たいなのよ。とても想像できないけど、市場が消えちゃったら、すかさず根津中に転入を申し込んだのですもの。後で知ったんですが根津中の転入にも、吉田さんが親代わりに成ったのね。とても12歳の知恵だとは想えないでしょう。」
「 其れで私たち二人がオーストラリアの下見に行くのも計画の中に入れてたのね。」
「 当然でしょう。マリーがオーストラリアに特権を持ってるのを使おうとしてたのよ。230万円の預金では、大学は無理なのをチャンと知ってるのね。
此れまでは日常のお小遣いも暮らしの全てを、お姉さんの位置に据えてた楠のお金に頼ってたのね。其れが功とセックスして手に入れた物なのも知っての上での姉と妹を使い分けてたのよ。恐らくマリーが遣ったマネーロンダリンをかすめるのも計画に入ってると思うのよ。
根津で暮らして十文字に通うのには楠の稼ぎで何とか成るのは知ってたのね。顔には出さないけど、マリーが来て功の稼ぎを何処かに隠したのは知ってるのね。此れを言ったら悪く取られそうだけど、マリーが得意なオーストラリアに着いて行けば、大学も其の後の暮らしも何とか成ると踏んでるのね。
楠が功を絞め尽したのも知ってるのね。
功を絞り尽してもう鼻血も出ないのをチャンと知って、マリーに乗り換えてるのよ。さあドウしますか。」
其んなの百も承知でオーストラリアに楠さんを連れてったのよ。功とキッパリ手を切るのにね。でも思い掛けないルクセンブルグのユダヤバンクのブラックカードが手に入ったでしょう。
もう功は何処か違う世界の男なのね。けじめを付けるのにはオーストラリアと吉田さんを使おうと思ってるのよ。其れには根津の寮が日本支社として残すのには向いてるでしょう。長い戦いに成るでしょうが、娘たちの切り替えを見てたら根津には戻らないでしょうね。むしろ日本の女として日本を捨てられないとしたら、根津では無くて京都や奈良に想い出としての根城を創りに行ったと思うのよ。一度行った金沢かも知れないのね。マリーも根津に想いは残さない様に仕様と思ってるのよ。
マリーはオーストラリアとバルセロナを行ったり来たりに成るでしょうが、駐留軍時代の芝浦キャンプも佐世保ドックから占領軍権限で徴収した1万トンの貨物船を使って、オーストラリア政府が処理に困って居たサラブレットを引き取ったのも、日本とオーストラリアの結び付けにしとこうと思ってるのよ。
そうよ、功との関係は終わったけど、彼がトップテンの商店主から巻き上げた800億の日本円は、もうどうでも好いのよ。其れとはけた違いなルクセンブルグのユダヤバンクのブラックカードが手に入ったんですもの。娘たちとの関係は楠さんに譲るとして、根津は吉田さんご夫妻のホームグラウンドとして残せばいいのよ。娘たちも楠さんも未練は無いでしょうから、新しい人生を作るのには根津は邪魔に成るのよ。
お金とセックスは切れないとしても、違う種類のお金とセックスを暮らしの柱に据えれば好いのよ。
ねっ、都合良く作れるのがフィクションなんですもの。