「 ねえ貴男、ゲームはお好き?」
「 又、何を言い出すのかと思ったら、いきなりゲームと来たな。好きも嫌いも今取り上げるテーマとは別なんだぞ。俺はゲームに呑み込まれるほどのひま人では無いんだ。アレは架空の何も生まない、時間だけが無駄に過ぎて行く子供の遣る事なんだな。
無駄と言ってもゲームは想像力でも無いし判断力を競う物でも無いんだ。多くの無駄は少しはのちのちに残る物だが、レースやゲームは時間が過ぎたら何も残らないのさ。
其んな物に好きも嫌いも言ってる暇と言うか、時間を使う気は無いな。」
「 貴男らしいわね。時間と仰るのがお答えなんでしょうね。珠樹も其うなのよ。ゲームをレースと置き換えれば、其んな物に1秒だって使う気は無いのよ。」
「 其れが判って居るのなら、ゲームがドウコウなどと言い出さないで呉れよ。其れこそ時間の無駄に成るだけだぞ。」
「 違うのよ。貴男と過ごした時間の中に、ゲーム感覚で来た事が有ったかしら。勝負と思って来た昔に置き換えても好いわ。
判り易くすると、日本を離れるのに何かを外国に求めたかしら。日本で負けた何かが有ったから日本を捨てたのかしら。
トレヴィに求めた物は日本に無い何かを探したのでは無かったのよ。旅行に意味を求めたのなら、其れにはゲームと同じ気持ちで勝ち負けを求めたのでしょうね。
じゃあシチリヤに行ったのは何だったのでしょう。刺激や新鮮や心に新しい何かを求めたのでは無かったでしょう。其んな物、高輪に居たって私たちの毎日に入ってたんですもの。貴男と二人で居て、貴男の匂いを感じて居れば高輪を出なくても24時間満足でしたのよ。ですから高輪を離れても貴男と二人の高輪がズート続いてたのね。私たちの心の中には高輪が焼き付いて居て、シチリヤでもマラガでもロンダでも何処でも良かったのよ。」
「 うーん、俺にしか解からない昔のお前なんだな。そうか、此れまでの8年は時間にしたら何も変わって居ないって事なんだな。二人で作って来た時間だって言うのだろう。其の中には勝負もゲーム無かったって言いたいのだろう。
そうだな、妊娠って経験が無い時間に二人の時間を乱されたくないって言うのだろう。
そうなんだ。俺もお前も怖いのは同じなんだ。出産を間近に控えて怖いのだろう。
俺も怖いんだ。高輪からズット二人で時間を刻んで来ただろう。愛も恋も楽しいのも興奮も、全て24時間を二人で埋めて来たのだな。其れが狂うかも知れない怖さなんだ。
其処にはゲームや勝負の経験んで消える物とは違う時間が通り過ぎて行くのを感じてるんだろう。ハッキリ口に出して済む問題では無いのだな。
此う思おうじゃ無いか。陣痛が始まったら二人で数を数えるのさ。100までを一区切りにして又1から数え直せば好いのさ。
ゆっくり数えたり、俺のセッカチで飛び越したりするのも思い出の時間に置き換えられるだろう。
今までだって同じに遣って来たのだな。数こそ数えなかったが、二人で時間を乗り越えて来たのだ。其の中には勝負なんか思う暇も無かっただろう。
ドウだ、約束するから陣痛を二人で待てば好いのさ。」
判って貰おうとは思いませんのよ。
私たち二人で作って行く時間なんですのよ。其の中には陣痛も有れば、もっと厳しい事だって有りますでしょう。
タダ、思い出の時間として残れば好いのよ。