「 功を一つ所に閉じ込めて置くのってどう遣るのかしら。あの男のエネルギーは絶好調が続いてるのよ。」
「 やれやれ、話に成らないな。余丁と似た様な男は五万と居るのだぞ。仮りに殺したとしても替りが出て来るのは間違い無いな。
だって其うだろう。奴は市場に4年近く巣食ってたな。だから大方の処は掴んでるさ。
市場の雑役は並みの神経では勤まらないぞ。運び込んで来る野菜は泥が付いたままなんだ。ホウレンソウなんかだと根元に回虫や蛆が沸いてるのさ。其れを一本ずつ洗い流して売り物にするのだから、流石の奴でも反吐を吐きながら取り組んでたのさ。
何の為だと思うんだ。金と女さ。男ってのはな、狙いと言うか思惑は夫々違うのさ。オリンピックじゃないが参加して決勝に出られれば満足な奴も居るな。女と言っても男の方が好い奴だって居るぞ。
奴が求めて居る物は間違いなく金なんだな。金に異常な執着心が有る様に見られてるが、其れだって大きな物を望んでるのでは無いぞ。」
「 あら、マリーが其んな戯言を言ったかしら。2年一緒に暮らして大凡の事は判ってるのよ。
確かにセックスは異常とも言える激しさだけど、其れだっておスペが袋に溜るのが早いから、二度吐き出しちゃえば満足なのよ。
若いと言えば其れまでなのね。」
「 おいおい、奴のセックスを言ってるのじゃ無いのだぞ。男の一般論を言ってるのさ。
セックスは相手が有る話だから奴に限ってドウコウ言っても仕方が無いだろう。金なんだが、男が生きてくのに此れだけは一緒に着いて回るんだな。
大小・種類はマチマチだが、極端に言うと金が絡まないのは吸ってる空気だけだな。サラブレット研究会を大々的に取り上げると言ったが、集まる男たちの何を信用するかと言うと
【 暮らしてプライドを失わない金 】
に集まるのだぞ。
此れほど確かな事は無いのだぞ。」
「 其れは女でも同じなのよ。プライドだって子供でもブスでも持ってるのよ。」
「 ドウやら勘違いしてる様だな。
男のプライドは自分が役に立って居るか、其れとも要らない存在かで決まるのさ。
仮りにゴミの様な男でも、ゴミなりに居る位置が有れば明日も生きて行くのさ。プライドと言うから誤解してる様だが、生き甲斐と言うかイッパシの男だったら仕事が無いのが辛いのさ。
余丁の奴が市場で蛆と格闘してたのは、仕事を与えられたからなのさ。奴が此れまで何を遣って来たかを知れば、競馬の賭けの上前を撥ねるのしか遣って来なかったのさ。
恐らく奴自身が最低の仕事と思って居たのだろうな。だから岩崎コンツェルンの親玉と会って、少しでも並ぼうとして金持ちに食いついたのさ。」
「 其れは判ってますのよ。」
「 チョット待てよ。今奴が遣ってるのは競馬のノミ屋では無いのだぞ。サラブレット研究会に入って何を知ったのかは、競馬の仕組みを知ったのさ。
畜生が走るのだから思い通りには行かないと、馬券を買う奴らは決めてるのさ。
心の奥では博打だからを知ってても、一発当て様として足掻いてるのだな。
競馬の仕組みを話してもしょうがないが、極端に言うと全部仕組まれたレースなんだ。奴は研究会から其の仕組みを聴いて、自分で勝てる馬券を買って居るのさ。
俺たち仲間は博打には手を出さないぞ。
何故かと言うと、理屈も汚いも屁も何も無く、金は欲しいが博打には生き甲斐が無いからなのさ。」
「 一寸々々、マリーが男の人の生き甲斐なんか言ったかしら。其んな物に関わりたくないのよ。
じゃあ、もう一度言うわ。バルセロナで直接言われたのは女将さんが電話して来ない様にしてってのが当面のお求めだったのよ。陰に口の軽い執事の高木さんが噛んで、功を唆してるのだからなのよ。
ですから功と女将さんを離す工作をしてるのでしょう。其れに男の生き甲斐を持ち出されても困るのよ。」
「 おやおや、判ってる様でかなりトチ狂ってるな。
確かに引き受けたさ。金の為にな。然しだな、余丁の生き甲斐と言うか、今すがって居るのは競馬なんだ。其れも博打として仕組まれたのに首を突っ込んでるのが唯一の生き甲斐なのさ。
最初言っただろう。男は金とプライドで生きてるとな。奴が遣ってる事は俺から見たらプライドなんて言える物では無いな。だがしかしだ。奴が其れを生き甲斐として居るのなら、此の先ドウ変わるのかを見届けるのが大事なんだ。
仮りにだな、仲間の話では先が有る若者なんだ。力は有るのだから、此の先何処に生き甲斐を見付けるのか見届けるのも男の仕事だろう。
と言われたのさ。サラブレット研究会は八百屋よりも確かな生き甲斐に成ってるのさ。俺も其れに乗って見様としただけなのさ。余丁の事はしばらく様子を見様じゃないか。仲間もノミから手を引いて、研究会に本腰を入れたいと言ってるのさ。
家内も遣って見たらと言ってるから、此の際利益を無視した学芸員組織を作ろうと思ってるのさ。」
ねっ。吉田様も男でしたのね。マリーが金づるに成って奥様が所帯骨を纏めれば、悪いようには成らないと思いましたのよ。