「 歳かしら。此んな心の問題を話し合ったのって初めてね。」
「 そうよ、マリーだって心に触れると女の暗い面に入り込むのが嫌で避けてたのよ。娘時代から話し合う相手が居なかったでしょう。偶に口を聴いた女性にも寄り掛かりたいと思っちゃうから、つい余所余所しい態度を見せてたのよ。」
「 其うなのよ。日本でも同じなのよ。
お肉屋さんやお魚屋さんでは、買い物が暮らしの裏を見せる様に感じるから、合挽きの細切れ肉を150グラムなんて買えないでしょう。
女の悋気を見せる様で立ち話も避ける様にしてたのね。」
「 そうか、マリーは又、肌の違いが有るからって深入りするのから逃げてたのね。
セックスから入った功は別にしといて、他の人と付き合い始めるとズルズル深みにのめり込むのが怖かったのよ。
功とのセックスだって、動物の其れと変わら無かったのね。朝起きると夕べの臭いを消すシャワーが先きでしょう。無言の味気ないブレイクファーストが済むと、お互いに体を求め合うだけだったのよ。」
「 判るわ、ってセックスをでは無いのよ。日本人はガムを噛むのを知らないでしょう。
ですから直ぐ合体に持って行くでしょう。此れって売春と同じなのね。
あの子たちは其れをお股で受けたでしょう。9月1日の伊勢湾台風で決まりが着いたから、
直ぐオチンチンは忘れて義務教育に入ったのね。」
「 其れらしいのはカナダの6ヶ月で聞き出したのよ。買春に触れ様とするとスルッと逃げられて、女の世界の細かい話に巻き込まれちゃうのね。
あの子たち若い癖に偏屈過ぎると思ってたけど、実は違ってたのね。石けりも縄跳びも知らないのを、根津で背伸びして根津中の同級生たちが通り過ぎて来た幼稚園時代を知ってる様に装って来たのね。その癖青森の純朴を出すと
【 田舎者だってバカにされるから 】
悩みが偏ってたのよ。ですから田舎者を隠さなくても好い十文字を選んだのね。
一週間レイ・ファン・カルロスで話し合ったのよ。珠樹も娘時代、子供時代を知らないのはマリーと同じだったのね。
弥太郎さんとはお湯殿の立ちションで解れたって赤裸々な高輪時代を話して呉れたのよ。妊娠まで漕ぎ着けた今でも、エンサンチャ病院の産科に来るお母さんたちが通り過ぎて来た経験を知らないでしょう。今に成って順番に歳を重ねて来なかったのを悩んでるのね。
私たちだって同じ環境に居たと思ってるけど、――――」
「 待ってよ、同じじゃ無いのよ。珠樹さんも弥太郎さんも苛めるのを知らないで来ただけなのよ。私たちは歳也りに苛められて来たのよ。
子供時代の苛めも経験して来たし、大人の過酷な苛めの世界を潜り抜けて来たのよ。
其の中からお金に頼るのも知ったし、
セックスで心の憂さが消せるのも知ったのよ。其れには楠のアホが幸いしたとも言えるのね。どうしても娘たちの心の中に入って行けないから、動く事でお茶を濁して来たのね。」
「 そうなのね。此んなお話は深刻に成ってお互いの間の溝が深まるのを知ってるのね。娘時代だったらストレートや純情で心を隠せるけど、マリーの周りに壁を作っていじけた道を歩いて来たのね。
今でも其うよ。マリーだって36年の経験から心にオフリミットの立札を立てて
【 悩みの立ち入り禁止 】
で、愚痴を聞かないし零すのも程々して来たのよ。
好いのよ。心のお話なんか何処まで行っても茶番劇なのね。動きましょう。」
「 そうよ、楠は出来るのよ。鼻歌交じりでおトイレの金隠しの裏までお雑巾で拭けるんですもの。其れが出来たから36の今が有るのよ。」
スルッと交わされたのよ。娘時代は知らないけど、女にも成れば用心が先に成るから心のお城から一歩踏み出しても、直ぐ後戻りしちゃうのね。
人間、お墓に入るまで独りなんだけど、其の中から何かが生まれるってね。