前の晩は昔話で終わっちゃいましたのよ。だって奥様も珠樹のことは初耳だったのですもの。独りでのんびり入ったのは、久しぶりの温泉でしたのよ。
「 寝る前にひとっぷろ浴びようじゃないか。」
で、お酒の勢いを借りて蛍が飛び交う外の岩風呂に飛び込みましたの。熱い目の温泉でしたのに奥様の引き締まったお体って――――おへそとAカップとじゃれ捲くって、長い事忘れて居たマダムの感触に浸りましたのよ。
「 イヤ参ったな。濁り湯だから良かったんだが思わず――――」
奥様がオープンなんですもの。マリーをお背なに負ぶって吉田様と抱き合いましたのよ。
何しろ女二人の重さなんですもの。お湯の中に沈んだ旦那様とドウ絡んで居るのか試すなんてフシダラはしませんのよ。娘の様に引き締まったAカップは子宮と連動してますでしょう。
キュッと締まるのを感じますから思わず手が奥様の子宮を探って、チョットだけ滑って合体を確かめたって責任はお酒に取って貰いましたのよ。
自然に雑魚寝はご遠慮して、
空き部屋無いかしら
で、独り寝を楽しみましたのよ。朝仲居さんに起こされるまで夢も見ないでって、ホントにぐっすり眠って仕舞いましたのよ。
「 いや、済まなかったな。酔い潰れた何て何年ぶりだったかな。」
奥様の初々しい事ったら、朝ごはんが済んでお茶を煎れる仕草にも感じましたのよ。
そうそう、お仕事が有りましたのね。お部屋に戻って仕切り直しに成りましたのよ。
「 岩崎弥太郎に呼ばれたって、何処で繋がってたんだ。」
「 存じませんわ。呼ばれたのは珠樹さんでしたのよ。三人で話しましたのは、バルセロナで家庭を持った時の子供さんの洗礼からお聴きに成ったのですのよ。マリーがカソリックの養育院に15歳まで居たのをご存知でしたのね。ですから生まれて何日目に洗礼を受けるのから始まって、お布施の諸々まで時間を掛けてのご質問でしたのよ。」
「 おいおい、其れを聴きにバルセロナに呼んだのでは有るまいな。」
奥様にお尻を抓られましたのよ。そっと立って窓から山に懸かる雲が流れるのを見て居ましたのよ。此れくらいは女の嗜みなんですのよ。息継ぎのチッて音を三つ聴けば席に戻るタイミングなんですのよ。
あら、其れって常識なんでしょう
「 マリーの言おうとするのは判るんだ。外国に出たのは何回も無いが、三人の娘は上智で学生生活を経験したのさ。あそこは日本では数少ないローマカソリックの認定を受けている大学なんだ。立教やらフェーリスを初めとして、数多くの教会を持つ大学は有るな。しかし上智は娘たちも洗礼名を請けている特殊な大学なのさ。だからじゃ無いが、カソリックの厳しさの少しは知って居るぞ。」
「 珠樹は其れを言うのが多くを悟ってってサインでしたのよ。人種問題と宗教の戒律でしたら時間を置いて話せば済む事なんですのよ。マリーの顔色を見ながらの探りを入れて居たのですのよ。
其れを反故にするほどのドジな女では有りませんのよ。ご主人の畠山様には喋らせないで、独り芝居を続けて居たのですのよ。
問題を珠樹が被ろうとして居たのが見え見えでしたのよ。其うかと言ってまだお目にかかって間もないんですもの。三人でお会いして居るからには、マリーの才覚を弥太郎さんがお見つめに成って居るのにお応えしなければに成るでしょう。
プロ中のプロの商売人と、芸者珠樹を混同させる位は承知して居ましたのよ。」
「 待てよ、其れをさせない為の珠樹君の思い遣りなんだろう。」
「 あら、お話ってお互いの理解度を確かめるなんて初級の会話なんですのよ。1時間話して居れば、触れてはいけないパートなんか理解できない様では、ハーバードは勤まりませんのよ。
そもそもが 【 芸者珠樹よ 】 から
始まったんですもの。畠山珠樹を言わないで芸者を仰るからには、其れに纏わるトラブル位は承知して居ましたのよ。
ですから旦那を外しての本題に入るまでは、宗教の戒律一本に絞って会話を続けましたのよ。」
「 待て待て、言いたい事は判るのさ。だが家内を混乱させないのに、少し飛ばして何処から電話が来たのかを話して呉れないか。」
「 流石と申して置きますわ。実は此処に柳橋の女将さんから電話が入りましたのよ。珠樹を呼び出すお電話でしたのに、其れとは知らずにお電話に出ましたのよ。そしたら柳橋のお母さんからのお電話でしたのよ。
判るでしょう。レイ・ファン・カルロスに泊まって居るのを知って居るのは何人も居ませんのよ。執事のお二人だけとも言えるのですもの。中でも柳橋に関係をお持ちなのは住吉様なんですから、あの方が女将に珠樹の旅先を教えるなんて考えられませんでしたのよ。
すると此処をご存じの高木様から漏れたとしか考えられませんでしょう。
とっさに其の線から、どう情報が流れたのかを悟りましたのよ。」
「 其うだったのか。だから余丁のガキが後ろで糸を引いてると思ったのだな。」
「 とっさの事でしたのよ。お電話は直ぐ切りましたけど、此の儘ではヤー様にお呼びが掛ると思いましたのよ。ですから一呼吸置いて、日本からの電話は取り次が無い様に処理しましたのよ。」
で、其の日の話は終わったのさ。
家内と撚りが戻ったのは何年ぶりだったかな。夫婦の思惑って思ってるより厳しいんだぞ。だからマリーには済まないと思ったが、家内を誘って裏山の散策としたのさ。野獣に戻ってな。