「 ホントは場所と時間を変えて話し合うのが好いのでしょうね。」

    「 お前さえ続けられるのなら、話し合おうじゃ無いか。言いたい事も判った心算だし、聞かねば成らないのも十分承知してる心算さ。」

    「 そうね、私逆上せてたのかもね。柳橋って

女の裏社会でしたのよ。其処には生活のカケラも無かったのね。逆に言うと体さえ捧げれば、男が何でも遣って呉れる社会でしたのね。言って見れば、聖心と柳橋と高輪を往復していたのね。高輪で養われて居て有頂天に成ってたのね。」

    「 俺も同じだったのさ。60年お天下様で暮らしてたのさ。

          イッパシノ男なら、皆んな似た様な者だと思い込んでたのさ。現実だけを見詰めて居れば、落ち零れて行く奴には目も呉れなかったんだ。

競争してたのでも無いし特に何を遣ったのでも無かったのさ。少し頭を使えば何とか成るで暮らしてたんだな。

      自惚れてたと言われても、男は其れが無い奴は落ち零れて行くと決めてたのだな。」


    「 まあ好いでしょう。私に取っては高輪城の親分なんですから。子分に成って言う事を聞いて居れば、生きてくのに事欠かないとふわふわ暮らしてたのね。

           聖心って日本のトップクラスの上流社会だと思ってたのよ。4年で何を習ったのかと言うと、養われる代わりに日本社会のトップの女に成る教育だと決めてたのね。

       誤解されない様に言って置くけど、言い方は違っても養われて居るのと育てられて居る話しか出なかったんですのよ。女の子が騒いでグチって、くだらない話に合わせて飛び跳ねるのとは違う社会でしたのね。実に聖心って其う言う社会でしたのよ。」

     「 そうか、実が無い社会だって言うのだな。」

     「 少し違うのよ。柳橋が裏社会で、聖心は表社会だと思ってたのよ。4年其の二つに首まで浸かって見たら、其れが世の中って物なのが判ったのよ。

            例えは悪いけど、世の中には綺麗な面と汚い面が混ざってると見えたのよ。

       すると毎晩帰って来る高輪にホントが有ると思い込んだのね。只、欠けてたのはセックスだけだと思い込んだのよ。其れが出来たらもう、世界は二人の物だと己惚れてたのね。養い親の貴男と一緒なら何処に居様と珠樹の世界だと思い込んだのよ。

      ところが妊娠でしょう。忘れて居た母の育てを思い出したのよ。

            母と私は全くの他人だと思い込んで17年生きて来たのよ。其の他人がお腹の中で育ってるでしょう。加えてマリーさんが家族に入って来るとしたら、今まで作ったと思って居た二人の世界が足元から崩れたのよ。

      黙って聞いてよ。初めて目が覚めたのよ。ご新婚遊びは終わったって。此処からが女の勝負だと思い直したのよ。

      全く新しい世界が始まるのだとしたら、貴男と二人だけでは収まらないのに気が着いたのよ。

      そうよ、始まったのですから何時までって言ったら死ぬまでに決まってるでしょう。其の長帳場を生き抜くのには、母と暮らした17年が戻って来たと思うのが生き抜く基に成るのね。

             そうよ、生き抜いて見せるわ。貴男に養われて居たのに甘えないでね。私と娘が居なければ貴男の存在も無いって気が着いたのよ。

       聖心で教わった養われるのと育てられるのとが頭の中で渦を巻いたのよ。そうよ、私一人では無いって思いは捨てたのよ。生まれて来る娘も家族を作って行く人なのね。貴男との三人はそれぞれに独立した三人―――――いーえ、マリーも来れば4人なんですけど、それぞれに独立してるのに気が着いたのよ。其れが二人の新婚の終わりなのね。」

         何時もと違って俯いて聴いてましたのよ。判るのよ。突きつけられた札の重さにね。

            大黒柱から逃げられないのに、しっかり独立するのを胸に叩き込まないと落ち零れに成るのをね。悟るのは早いんだけど、立ち直るのも早い人なのよ。大黒柱で居るからこそ男で居られるとね。

       そうよ、其れが男なのね。大きい存在だけど、チッポケな存在でも有るのね。