此んなのって有るのかしら。
女性だと妊娠が有っても不思議では無いでしょう。
むしろ、1人の彼と何年続いて居ても妊娠が無いのは彼の所為にしたいでしょう。柳橋の先輩方のお話しでは、殿方はセックスのお相手が妊娠し無いのを精子の衰えにしたく無いご様子なのね。
旦那の中には種無しを云われまいとして、漢方薬や其の手のドリンク剤を行為の前にお摂りに為って、バイアグラで終われば好いのにおかしな薬草に手を出して刃傷沙汰で生涯を終わる旦那も多いのよ。
「 私たち、何時からセックスの関係に入ったのでしょう。」
「 又なぞ掛けか。俺が競争と頭の回転を云われるのは嫌いなのを知ってて、お前のなぞ掛けに嵌っちゃうからヘンなんだな。セックスの関係って、そうか、随分ご無沙汰が続いてるから何とかしろって事なんだな。」
笑っちゃいましたのよ。だってそうでしょう。彼が謎を掛けてるんですのね。
「 ハッキリするのでお答えにしても好いのよ。貴男は男なんでしょう。珠樹はメスで受け皿なのよ。
ほら、ヘンなお顔をするでしょう。
珠樹が言うセックスの関係って単純に取って貰っては困るのよ。貴男と私の関係って、24時間途切れた事が無いでしょう。
寝ても覚めてもって日本語に置き換えれば、
眠っててもトイレに入ってても貴男が頭の中から消えた事は無いのよ。もう屈がんで手を回して拭くのが苦しいから、黙って居ても貴男が来て呉れるでしょう。
云いたいのはセックスの関係ってのは、もうお互いに細胞の中に入り込んでるのを云いたいのよ。
逆に言うわ。珠樹の我儘は、誰れにも何にも干渉されたくないのよ。ワカランチーね。最初に話しを戻すと、廃貨車に住むのから解放されて独りに成って身軽さを満喫してたのよ。
良くても悪くても、母の干渉から外れた身軽さだったのよ。差し当たりは屋根の有るネグラを求めて歩いて来た日光街道には犯されて居ない柳橋に泊めて貰いたいって言っただけなのよ。
其れをパンツ一丁の大男に連れ出されたでしょう。行った所が日本とは思えない高輪だったでしょう。其んなのに巻き込まれて自分が消えるのが怖かったのよ。」
「 判る判るさ。其の通りのお前だったな。言葉にすれば野生児なんだけど、暴れるでも無いし嫌うも何も一切ダンマリの世界で澄まして居ただろう。
ホントを言うと参ったのが本音だったのさ。二人の執事が其の日の内に全部調べて報告して来たんだ。
兎も角ハンセンの処置はしなければで、岩崎病院から医者を呼んで特効薬の注射だけはしたのさ。話せないと想ったのに、ライが陽性に成ってる筈だと喋っただろう。実の処アレが切っ掛けだったのさ。」
「 ご免なさい。自分を言えるのは其れしか無かったのよ。セーラー服の下にはお正月から履いてたスカートだけなんですもの。頭には虱が居て、梳き櫛でヒマが有れば虱を落としてたのよ。其れがお湯殿で女中さん達に押さえられて、足の裏からお股の中まで洗われたでしょう。抵抗したくても力は無いし、貴男が怒鳴りつけて独りにして下さったから、今度は貴男に占領されるのを嫌う戦いだったのよ。」
「 おいおい、占領は無いだろう。何もかも受け付けないで俺のベッドで眠っちゃっただろう。不思議だったな、俺のパジャマが似合ってたから其のままにしといたのさ。
セックスは愚か、女も感じなかったんだぞ。目が覚めたらトイレの金隠しを跨いだのは好いけど、和式と同じに反対向きに抱え込んでたので育ちの一部が見えたのさ。
何とか小便だけはと思ったのでバスルームに連れてったら、俺のも引っ張り出して並んで飛ばしたのがお前の言うセックスの始まりだったな。」
「 そうよ、少し意味は違うけど、やっと並んだ感じだったのよ。出されたお食事もドウ遣って食べたら好いのか判らないでしょう。お茶碗のご飯をお握りにしたら、海苔巻を作って呉れて森の中で食べたのが最初の朝ご飯だったのね。」
「 そうだったな。テッキリ反抗が続いてる物と思ったのさ。ところが茶碗の飯を握って丸めたので気が着いたんだ。箸もスプーンも知らないとな。
試しに森に連れ出したら、帝国ホテルの賄が作った握り飯にパク着いただろう。いや、食べっぷりが見事だったな。
終わると小便かと思ったのに、池の畔の花を摘んで手首に巻いただろう。あの時はお母上の手首の剃刀傷を言ってるのかと思ったのさ。」
「 ご免なさい。全部忘れる事にしてたのよ。花を真正面から見たのは初めてでしたのよ。匂いを嗅いだら好い香りだったでしょう。此れだったら珠樹の心に入って来ないかもと思ったのよ。」
少しは判る気がしたのさ。珠樹が言うセックスの暮らしってのは、何物にも染まらないのを通そうとする想いだったのだな。
レイ・ファン・カルロスに馴染むのでは無かったんだ。窓から見えるグエル別邸のケバケバシサに比べて、冷たいとも思える何も飾らないレイ・ファン・カルロスの石組みが気に入ってたのさ。
其れが珠樹の言うセックスが有る暮らしなんだな。