「 聞いてるとは思うけど、マリーに話す人のご都合がドレくらい混ざってるかに拠るのね。」

   「 世界の何処に行っても同じなのよ。其れを誘導だとかマインドコントロールだとかで片付けようとするのね。乗せられない様にして来た心算でも、やっぱり弱さで自分を見失ってしまうのね。」

   「 其れは私も同じなのよ。でも有り難かったのは10歳からの7年を、母と向き合って暮らして来たのよ。どう思われても構わないけど、365日×7年を殆んど孤独の貨車の中で生きて来たのよ。

          無人島で暮らして来たのとは違うのね。森も無ければ小鳥も虫も居ない薄暗い貨車の壁を見詰めて考えてたのよ。

    信じられ無いでしょうが他の影響を請けないってのは、自分を見詰めるしか無いのね。掌を翳して見て、10本の指と爪を見詰める毎日だったのよ。」


   「 信じろって言われても、良く狂わなかったのね。」

   「 今だったら狂ってると思うのよ。一つだけ言えるのは、あの年頃の子供って死ぬ事を知らないのね。生きてく事も知らないで、タダ今日一日を過ごすだけなのよ。

          実は独りに成るだろうってのは、オボロゲニ知ってたのね。ですから千住警察で父と母の死んだのを確認されても、死よりも全部バイバイだとしか思わなかったのね。

    態々余計な事を云ったのは、柳橋のお玄関で彼を見た時、

          此の人も千住警察で見た父と同じに成る

    としか、想わなかったのよ。其れからの6年が此処からのスタートだったのね。」


   「 判ろうとしても無駄なんですのね。マリーの心って揺れ動いて来たのよ。カソリックの養育院から始まったんだけど、黒とスパニッシュと女の子と、

シスターが見て居なかったら虫の羽を千切ってマリーに食べさせようとする男の子と暮してたんですもの。

          只、此処から抜け出ようとして、カソリックの奨学金目当てにハーバードを目指したのよ。

     貴女には親が居たでしょうが、マリーは気が着いた時から独りだったのよ。養育院でもハーバードでも軍に入ってから28年も、家庭を知らない黒い女だったのよ。ですから功にセックスされてのめり込んだのとは違うのよ。」


   「 判るわにしときましょう。

          此う思って好いかしら。彷徨い続けて何かを求めて来たって。良く皆さんは、人の温もりを求めるなんて言うけど、其れって其の時の条件によると思うのよ。

    親が死ぬのは判ってたのね。死ぬってのでは無くて居なく成るのを想ってたのよ。ですから今夜から貨車に戻れないから、屋根の有る所を探してただけなのよ。」

   「 そうね、其れをマリーに云ってるのね。」

   「 半分わね。半分は彼が見て居る先が父親と同じだと感じたのよ。ですから6年皆さんに教わった彼の昔なんか意味が無かったのよ。只、亡霊の陰から引き戻す事しか考えなかったのよ。

          女が屋根を求めて其れを男に求めたら、出来るのは裸の体しか無かったのよ。

     ですからファックの無いセックスの6年が始まってたのね。我武者羅に17歳の娘と並ばせようとした結果が、28歳を取り戻したのね。」


   「 想像しろって言われても無理に決まってるでしょう。」

   「 違うのよ。想うとか理解してって言うのでは無いのよ。女が生きてく基本は屋根の有る暮らしなのよ。生まれてから其れを与えられてるのなら別ですけど、1人では屋根は求めるのがムリなのよ。

          凄く単純でしょう。お金が有れば屋根も家も造れるのね。ですから体を売ってお金を作ろうとするのね。

     私はいきなり高輪のお屋敷に連れて行かれたのよ。明日も此処に居ようとすれば、彼に裸で答えるしか無かったのね。今マリーは同じ立場に立ったのよ。レイ・ファン・カルロスに居たかったら彼に裸で向かったらドウなの。私は彼の同棲者の妻なのよ。マリーは日本に戻りたかったら停めはしませんのよ。でもバルセロナで屋根を求めるのでしたら、私と彼との話し相手に成って呉れないかしら。

          話し相手って言うと聞こえは好いけど、私とは喧嘩しても好いって想って欲しいのよ。

          傷を舐め合うなんてキレイ事は言わないわ。女の1人ってマリーだって知ってるでしょう。

ウソもホントもごちゃ混ぜで好いから一緒に居て欲しいのよ。

      彼のホントはマリーの目で確かめて欲しいのよ。今は私の妊娠が壁に成って、ホントを見せない様にしてるイジケタ男なのよ。其れを抱き留めて遣って欲しいのよ。三途の川を思い出さない様にね。」

      云っちゃったのよ。判るかドウかでは無いのよ。私にも彼にも喧嘩が出来る人が居ないんですもの。幸せの陰には孤独の時が増えるのが怖いのよ。