「 私の愚痴だけど聞いて呉れる。」
「 好いぞ、お前の愚痴は先が見えてるからな。違うんだ、悪く勘ぐるなよ。商売で言えば先が見えてる――――って、落し処が見えてるのに其処に辿り着くまでの演出を複雑に持って来るのさ。俺の計算の中には何処で落ち合うのかを決めてるから、相手の話を眠りながら聞いてるのさ。音楽だと思って聴いてると、其のメロディーの中に単語が出て来るのさ。相手の本音の単語なんだ。だから其れに少し味付けをして遣れば話はあって間に纏まるのさ。味付けした半分は奴の懐に入るし、半分はキックバックとして戻って来るのさ。
ウフッ、俺と同じ手を使ってるな。音楽だと思って聴いてるのだろう。
本音の単語は出来ちゃった婚だから昔を整理しとこうって何だろう。
ウフッ、何処まで行っても可愛い奴だな。」
「 どうして判るんかしら。そうなのよ。貴男と一緒に成るまでは、ライ病に振り回されてたのよ。健康だと思ってたのに、気が着いたら千住で住む様に成ったでしょう。病気を意識し始めたのは12・3に成ってからなのよ。其れまでは何で豚小屋で暮らさねば成らないのかが不思議だったのよ。社会に出て行けば親子バラバラにされて、お母さんは断種手術されるって訊かされてたのよ。
其れが何だって言うのよ。此処から出られるのならお母さんが居なくてもって想ってたのよ。
お母さんが居なくてもドウって事は無いのに、お母さんには私が居ないと困るんですのね。其んな
のって勝っ手過ぎるんじゃ無いかしら。」
困ったお顔のフリを為さったんですもの。8年ご一緒だったら、時間で言えばどの辺をお考えかが判るんですのよ。
面白いんですのよ。愛だとか計算だとかでは無くて、人ってせいぜい1年か2年先までしか思わないんですのね。ですから彼のおつむの中には、生まれて来る子の事しか無いのよね。
私のお母さんの勝っ手をぶつけて見たんですのよ。三人だと思って貰っては困るってね。
なんたってずば抜けたお利巧さんなんですもの。珠樹は経験としぶとさで面と向かってますけど、
彼に負けないくらいの時間を読む癖は身に付いてますのよ。女の特徴って言われれば其れまでですけどね。