「 云っちゃおうかしら。」
此のパルからの眺めが一番好きなんですもの。モンジュイックでは深い森を眺められる窓際が指定席でしたのよ。デイアゴナル通り沿いのパルは、日替わりで攻略して居ましたのよ。知ってるだけでも50軒は有りますけど、フランセスク・マシア広場の眺めも明るくて素敵ですのよ。大盛りのあさりご飯を彼に食べさせて貰って、久しぶりに甘えちゃったんですのよ。
「 ねえ、何時から結婚しようと思ったのよ。まだ今でも芸者珠樹は引かれたままなのよ。勝さんが留め名にしといた珠樹は返さなければ成らないのでしょう。」
「 違います。チャンとして呉れよ、お母さんなんだからな。もう芸者珠樹じゃ無いんだよ。畠山珠樹で俺の女将さんなんだ。待て待て、聖心の3期生に成って芸者のお披露目をしただろう。あれは俺の本心じゃ無かったのさ。
芸者のお披露目って旦那の力を見せびらかす儀式なのさ。力ってセックスできるのとは違うんだぞ。資力なんか見せなくても公式には紳士録を見れば全部乗ってるさ。
其れとは違って一人の女にドレくらい金が掛けられるかの自慢なのさ。お前を見せびらかすのは俺は大反対だったのさ。出来ればそっとしといて内緒にしときたかったんだ。一緒に寝てて我慢が限界だなとは感じてたのさ。
違うって、黙って聴けよ。」
黙ってましたのよ。お腹の中では
結婚して呉って告白が聴ける物だと
期待して居ましたのよ。男のてれなんですのね。真っ赤なお顔で言って呉れませんでしたのよ。
「 あの日来た奴らはお前しか見て居なかったんだ。俺が逆戻りしてお前に似合ってるのを見せたかったのさ。
コンツェルンが何だ。俺は畠山弥太郎でお前を末永く女房として見せる。
の想いを、誰れも無視してお前しか見て居ないんだ。二日目は振袖高島田は辞めたろう。白無垢の打掛を引きずった立ち姿には俺も惚れ直したのだぞ。」
「 其うでしたのね。もう上気して何も覚えて居ませんのよ。」
「 女将が飛んで来て耳打ちしたんだ。此の侭婚礼衣装と成る様にと思ったのに、重くてイヤだと言い張ったそうじゃ無いか。仕方が無いから打掛の裏は外して厚いふき綿も無くしたんだってな。其れがお前のスタイルにぴったりだったから、誰れにも見抜かれ無かったんだな。」
「 そうなのよ。だって汗が流れたんですもの。イヤだって言うのにお昼が終わったら軽い色留袖にするってので我慢したのよ。貴男が下さった大振袖も付け下げ訪問着も、柳橋の5本の和箪笥の肥やしに成ってたんですのよ。お姉さん方が面白がって、聖心から戻ると着せ替え人形が始まったでしょう。ワザと襟を抜いたり、真っ黒なお腰でランボーダンスさせたりして楽しまれたんですもの。もうお着物はイヤだって言うのに、二日だけだからって我慢したのよ。」
「 そうだったな。黒いお腰が有るなんて知らなかったんだ。飛び出して来たお前の真っ白な肌に黒は映えてたのだぞ。ヘンテコリンな胸当てをしてただろうから――――」
「 なにを仰りたいのですか。和服にもチャンとしたブラが有りますのよ。珠樹は要らないって言うのに、お姉さんのを外して付けさせられてたのよ。判るでしょう、5人の皆様50絡みなんですもの。珠樹を玩具にしたくてプロの裏表を教えて下さったのですのよ。そうでしたのね。並んで畏まってる貴男のお嫁さんに成れる日を想って我慢したのよ。ホントに若返って青年を通り越してる様に感じたんですもの。
ですから水揚げに頑張る心算が、あんな事に成っちゃったんですもの。」
「 だからその償いをしてるだろう。情けないとは思ったさ。緊張が過ぎるとあー成っちゃうんだな。
今は学生時代と商事で飛び回ってた時の中間に居る感じなんだ。女将を落籍して荒れ狂った時が何処かに行っちゃったんだな。何と言うのかな。又不能が戻るんじゃ無いかと怖い向きもあるのさ。」
「 ですから工夫してって言ってるでしょう。レイ・ファン・カルロスに戻ったら――――」
其れがダメなんですのよ。パルの窓際のお席でお鍋の蜆の殻を外して下さって、
あーんしてご覧。お腹の娘に挙げるんだから、
つて、母親に戻そうと為さるんですもの。ヘンなのよ、嬉しいのも二人分に成った気持ちなんですもの。