「 珠樹はお母上を話した事は無かったな。」
「 だって、違う世界のお人と思ってたんですもの。其の日の内に貴男が内緒で弔って下さったのは聞いてましたのよ。だったら口に終いと心に決めたんですもの。」
「 其の気持ちは判るのさ。何も今話さなくても帰ってからでも好いだろう。」
「 判らんお人ね。生まれて来る娘と私の関係は、世界が違っても母と私の繰り返しに成るのよ。女って其うした物なのよ。」
「 判らんと言われれば其うした関係が有るだろう位は察して居るさ。明日退院できるのだから、何も今に成って嫌な思い出を話さなくても好いだろう。」
「 ですから判らないお人だって言うのよ。大分治まったけど、此れから生まれるまでの苦労だけでは無いのよ。女は一生子供と争わなければ成らないのよ。怪我で入院して居るのなら退院は嬉しいでしょうね。私は母との思いが復活するのが怖いのよ。ですから其の想いを今の内に話して置きたいのよ。」
「 うーむ、其うか。終わった昔だから白紙にすればと思って居たが、其れで許される物では無かったのだな。」
「 ご免なさい、貴男に関係が無い事でしたのね。」
「 待て待て、改めて謝るぞ。お前が背負って居る因縁が、娘を産んで育てるのに被さって来ると言うのだな。其れを二人で被れば好いのだろう。此う考えて貰いたいんだ。生まれて来る娘は家族に成るのだな。でも俺に取って居て貰いたいのはお前なんだ。もう居なくては俺も生きて行け無い大黒柱に成ってるんだ。ドウも言い方が拙いとは思うが、愛なんて生半可な想いは乗り越えちゃったんだ。どうもイカンな。男はカッコよく生き様とするのだな。逃げるのでは無いのだぞ、どうしても汚れるのを嫌うんだな。良く話して呉れたな。俺も少しは汚れを被ろうじゃないか。其れがせめてもの男の心と想って欲しいのさ。」
抱き付きたいけど其れは出来ないでしょう。彼の団扇の様な手に頬ズリしちゃいましたのよ。其れがエンサンチャ病院の新しい思い出に成ったんですもの。