「 そうよ、生まれて来る子供の為にも今話して置きたいのよ。」

   不思議に判り合えたのよ。イタリアに立つ前に、母のお墓にお線香を揚げて来ましたのよ。其れまで6年で、彼は一言も言って呉れなかったのですもの。口がお軽い執事さんが全部教えて呉れたんですのよ。千住警察から母だけ引き取ったのですって。父は広島の隔離病院に送られたと聞いて居ましたのよ。今だから言えるけど、悲しみよりも怒りが先だったのよ。

   「 聞いて頂けるかしら。」

   「 何だ其の顔は。お腹の子に差し障りが有るだろう。」

   「 ですから貴男に聞いて欲しいのよ。母と二人で過ごした7年はご存じなんでしょう。」

   「 うーん、何とも言えないな。執事の小田が喋ってるのは想像してたのさ。岩崎学校の後輩だったが、傍には置けない男だから秘書室に置いといたのさ。商事を辞めるのに着いて来たいと言うから執事にしといたのさ。」


   「 私には頼もしい情報源でしたのよ。聴けば何でも教えて下さったでしょう。あの日岩崎病院から検査に見えたお医者さんが、ライの陽性反応が出たのも教えて下さったんですもの。特効薬で免疫に成ったから悩ま無くても好いって言われましたのよ。」

   「 其んな事だと思ってたのさ。千住警察でお目に掛かって、お前にソックリなのでお母上は知ったのさ。綺麗なお体だったな、手首の包帯で何が有ったのかは判ったのさ。残念ながらお父上は広島警察の要請が有ったから収容できなかったのだ。」

   「 好いのよ、忘れて下されば一人の医者として生涯を終えたと思ってますのよ。でも母は許せませんのよ。私を置いて先立つのでしたら、どうして特効薬を手に入れる努力を為さらなかったのかしら。

もう好いのよ。生まれて来る子には言えないでしょう。今日此処で貴男に聞いて貰えば、珠樹はスッキリして忘れられるのですもの。」


   「 そうだったのか。俺とした事が申し訳なかったな。お母上にそのような別れの想いを持って居たとはな。」

   「 好いのよ。青森の姥捨てとは違うでしょうが、母親を愛情だけで見送れる娘が居るでしょうか。母とのつながりが深ければ其れ成りに恨みも深く持って生きて居る娘が多いと思いますのよ。生まれて来る子が娘だったら、私の教訓を生かして深く絡まない様にしたいのよ。ですから半分は貴男が娘と遊んで欲しいのよ。母は私さえ居なければと思ってた節が垣間見えたんですのよ。私は何方かと言うと、母が居なく成ればもっと自由な幸せが有ると思う時が多かったのよ。病院って暖かい心を無視して命を物理的に見つめる場所に想えるのよ。ですから今話して置きたいのよ。今言った事は、生まれて来る娘に取っても其れが人生だと思うんですもの。」

    何とも言えない微笑みを見せて呉れたんですのよ。レイ・ファン・カルロスに帰ったら話せない想いでしたのね。彼も其れを知ってたエンサンチャ病院の特別室でしたのよ。