「 シドニーから電話よ。あら、楠さんじゃ無い。別れたって言ってたのに、又帰って来たのね。」

   大笑いしてるのが離れて居ても聞こえるのさ。

   「 何を考えてるのよ。オーストラリアって広くて自由な国なのよ。何も金魚のうんこじゃ有るまいし、朝から晩迄くっ付いてる筈が無いでしょう。貴女方日本のセセコマシイのに巻き込まれて居るのよ。早く行らっしゃいよ。」

   「 其んな事云ったって功が―――――」

電話を替わったのさ。

   「 やあ、観光さん。ドウやら落ち着いた様だね。」

   「 さっきの声は五十嵐みたいね。根津に居なくてはダメでしょう。」


   電話は引っ手繰られたのさ。布施にね。

   「 何を言ってるのよ。マリーと別れたって留守電に入ってたのよ。ヤッパリね。お上りさんだからマリーにくっ付いて無ければダメでしょう。」

   「 布施ね、相変わらずノーテンなんだから。此のサー・スタンフォードホテルは建て替え前だから貸し切りに成ってるのよ。レンガ造りの古いホテルだから住み易いとは言えないけど、後1年は居ても好いって成ってるのよ。茗荷谷なんかに捕まって居ないで早く居らっしゃいよ。」

   「 ドウ成ってるの。根津と同じ寮を探すんじゃ無かったの。」

   仕方が無いから電話を替わったのさ。


   「 やっぱり其処に落ち着いたのか。目の前が王室植物園でしょう。動物園も兼ねてるし、何よりもシドニー港の三つの入り江を取り巻いてる感じでしょう。僕も気に入ってたからマリーは其処に行くと踏んでたんだ。建て替えるんだって。其処からだったら海と森に囲まれてて、レストランも多いし港のカフェが素敵だよ。日本に居たらアルコールはご法度でしょう。オーストラリアに行けばワインなんて水と同じなんだ。」

   そりゃ膨れますよ。ドウやらマリーは察してたみたいだね。皆んな茗荷谷に集まるってね。到頭電話に出なかったよ。やっぱり皆んなとは楠さんの方が長いんだよ、だからちゃんと立てるのを知ってたのさ。