12週に入って軽く終わるかと思って居たつわりが牙を剥きましたの。

   「 ダメ、歯も磨けないのよ。」

最初は歯ブラシに血がにじむ様に成ったのですのよ。

   「 ドラドラ、見せてごらん。何処に傷が有るのかな。」

   「 其れが判らないのよ。口全体が腫れてる感じなの。痛くは無いのだけど歯磨きが沁みるのよ。」

   うがいをしても何処が沁みてるのか判らなかったの。

   「 病院に行こうか。歯科が無くても産科だったら診て呉れるだろうさ。」


   此んなの初めてでしたのよ。急に不安に成ってタクシーを呼んで貰いましたの。何も食べて居ないのに、僅か5分で車酔いして戻して仕舞いましたの。

   「 好いんだ、俺の胸だったから車は汚して居ないよ。病院の売店でタオルを買うから心配し無くても任せて呉れてれば好いのさ。」

   あれ程威張って居ましたのに、急に彼にぶら下がっちゃったんですのよ。まだ売店は開いて居ませんでしたの。彼はシャツを脱いだんですけど、下には何も着て居ませんでしょう。労働者まがいのお胸に顔を埋めて何とか産科に辿り着きましたの。


   「 お怪我の様ね。此処では診られませんのよ。」

   気が着きませんでしたの。珠樹の唾に混ざった血が彼の胸を流れて居たんですもの。

   ナースさんも慌てましたのよ。胸を肌蹴たままの彼を放って置いて1階の救急室に運ばれましたの。彼は手に汚れたシャツを持ったままで、羽織って居たスーツが汚れて居るのも其のままにして着いて来て呉れましたの。

          まさか歯の出血だとは救急室でも判らなかったのですのよ。最初にレントゲン室に向かいましたの。珠樹も飛び降りて大声で彼を呼びましたの。レントゲンは絶対お断りだって。


   お一人のナースが妊婦の経験をお持ちの方でした。

   「 此れは内臓の疾患では無いのよ。恐らく歯茎が薄く成ってるのね。妊娠初期には良く有る事なのよ。」

   やっとの思いで彼が通訳として付き添うのを許されましたのよ。口に脱脂綿を加えさせられて、産科からお医者さんが来るのを待ちましたの。直ぐ下り物の検査をされましたの。彼と何か相談して居ましたが、

   「 入院だってさ。トキソ何とかって検査が必要なんだって。」

   「 判ったわ、昨日チーズを食べたでしょう。殺菌して無い生のチーズがいけなかったのよ。トキソプラズマに遣られたのかも知れないのよ。貴男も一緒に検査されるかもね。」

   「 其んな大事に成るのかな。細菌なんか何処にでも居るでしょう。チーズがダメなら食べる物は無く成っちゃうよ。」

   「 違うのよ、生ものは止した方が好いのよ。決まった訳では無いから検査を待ちましょう。」


   珠樹も入院させられるとは思って居ませんでしたのよ。咥えて居たガーゼに血がにじむ程度に成って少しは落ち着きましたのよ。

   最初の入院は内科の個室でしたの。一回目の採血で確定とは行きませんでしたのね。彼が先生と相談して

   「 正確な細菌検査は培養するので日にちが掛かるんだってさ。血液検査では異常を認めないが、内科よりも産科で精密検査をした方がって言われたんだ。」

   「 珠樹も其の方が心配ないと思うのよ。12週って流産の危険も残ってるけど、歯茎が傷付きやすく成ってるとは思わなかったのよ。つわりも終わりに近づいてると思ってたのに――――」

   話してるだけなのに、胃が噎せて来て戻しちゃったの。食べて無いから何も出ないんだけど、却って苦しかったのよ。内科でも手に負えないと感じた見たいだったのね。急遽産科にお引越ししましたのよ。